▼ 3
「えぇ!?何で此処にいるんスか!?」
「追い掛けて来たの〜?」
「危ねぇだろ、待ってろって言ったのに!」
「そうだよ!人目についたら危険だよ!!」
「困ったな。言う事を聞かないとは」
「とにかく、隠れるのだよ。其処にいると不味い」
皆がそれぞれ生き物達に声を掛けている中、雪ん子はお弁当箱を持って僕に駆け寄って来た。
中身は空で、綺麗に無くなっています。余程お腹が空いていたんですね。
頭を撫でながら、どうしようかと思考する。
昼で帰れると言ってもまだ4時間以上時間があります。学校で隠すのはまず無理です。
それに…彼女達の事も、何も分かっていません。
「ポケモンを知らない……と言うより、この世界には存在してないのか?」
「当たり前ッスよ!だから危ないんスよ!!」
「……カズキ、私この状況が理解出来た」
「僕も。簡単に予想がついたよ。うっわぁ……やられた。まさかこんな事になるなんて…」
「事情を知っているなら教えるのだよ」
「待て緑間。もうすぐ朝練の15分前だ。部員が登校してきたらこの状況は不味い。一度避難して、身を潜めてもらった方がいいだろう」
「んじゃ、そのポケモン達も私等が一時的に預かるぞ」
「…………大丈夫なんだろうな?」
青峰君が視線を鋭くさせて彼女達を睨む。
初対面の女性にそれは無いと思います。人として。
案の定桃井さんにバインダーで叩かれて、それを見て黄緑髪の人が苦笑した。
「大丈夫だよ。これでも色々経験してる方だし、ポケモンの事なら君達よりは慣れてる」
「危なくしないし、人の目にはつかせない。約束する。
んで、何処に隠れてればいい?出来るだけ広い場所がいいと思うけど」
「それなら教室棟の屋上はどうですか?あそこはバスケ部がいつも使っていますから、滅多に人は来ない筈です」
「そうだな。そこがいいだろう。
お前達、窓からすぐ見える白い建物がある。その屋上で待っていてくれ。授業が終わり次第、すぐに俺達も向かう」
「どれくらいかかりそう?」
「少なくても4時間だ」
「了解。人目を気にするなら“テレポート”で行くのがいいな」
そう赤髪の子が言うと、僕達が持つ“ポケモン”と呼ばれる生物に向かって話し掛ける。
「お前等、ここにいると迷惑が掛かるから移動するぞ」
「チャモ、チャモチャモッ」
「さっきも言っただろ。安全は保証するよ。これでも、それなりに腕の立つトレーナーなんでね」
「チャ、チャチャモ!」
「言い分は分かるけど、かなり危険だ。ここはお前等が知ってる世界じゃない。そこら辺も纏めて説明してやるから。
それに、お前等だって主人を困らせたいワケじゃねぇだろ」
「……チャモ」
「ありがとな」
彼女はどうやら、“ポケモン”の言葉が解るらしい。
僕達には「チャモ」を連呼している赤司君のヒヨコと日本語を話している人間にしか見えないし聞こえないのですが。
他の生物はヒヨコに賛同するようで、全員頷いていた。
「よし。話はついた。私等は指定された場所で待ってるから、お前等はいつも通りするべき事を存分にしてくれ。
ピチュー、頼むぞ」
「ピチュ!」
黄色い鼠?が敬礼をしたと思ったら、少女達と“ポケモン”はいなくなっていた。
正に一瞬。幻かと思いました。
赤髪の子は“テレポート”と言ってましたね…。瞬間移動、ですか。
「赤司。本当に任せて平気なのか?」
「彼女達は“ポケモン”と呼ばれる存在を知っている。ならば俺達よりも扱い慣れているというのは本当だろう」
「だが、あんな得体の知れない奴等に…」
「多分ですが、大丈夫なんじゃないですか?少なくとも僕はそう思います」
彼女達の瞳は真剣だった。
騙そうとしているなら、赤司君も気付く筈です。
それに、僕達について来た“ポケモン”達も納得していた様ですし。
緑間君は溜息を吐き、しかし反論はしないのか部活の準備を始めた。
早く授業が終わるのを待つしかないですね。
*****
「待たせたな」
「おう。平気」
「あ、ポケモンがお腹空いてたらしいから、勝手にご飯あげちゃったよ」
「構わない。助かった」
授業を終えてお昼も食べて、全員でここまで早足で向かって来た。
今日は部活も無く完全にフリー。普通はすぐに帰らなくてはなりませんが、こちらには赤司君がいます。何とでもなりました。
彼女達は“ポケモン”と戯れていて、危害を加えた様子はありません。寧ろ、凄く仲良くなっている気がします。
「さて、何から始める?」
「まずは自己紹介からしよう。俺は赤司征十郎だ」
「緑間真太郎なのだよ」
「紫原敦。よろしくー」
「青峰大輝だ」
「黄瀬涼太ッス!」
「黒子テツヤです」
「桃井さつきだよ。よろしくね」
「征十郎、真太郎、敦に大輝、涼太、テツヤ、さつき……ね」
「うん、全員覚えたよ!」
記憶力がいいんですね。
まぁ、自分で言うのも何ですが分かり易いですからね。
髪の色や性格、身長も個性的。
理解するのに手間が掛からなくていいです。
「では、お前達の名前は?」
赤司君はヒヨコの頭を撫でながら彼女達に聞く。
彼女達も各々の“ポケモン”を撫でて、背筋を伸ばし、声高らかに言った。
「私はアスカ!」
「僕はカズキ」
「「異世界から来たポケモントレーナーです!!」」
眩しいくらいの笑顔と、とんでもない発言に目眩を起こしそうになったのは、僕だけじゃないと思います。
prev / next
3 / 3