▼ 1
黒子side.
春の暖かい風に包まれながら、僕は不思議な体験をしました。
「…これは……?」
昨日新学期が始まり、2年生に成り立てだと言っても部活はあります。
いつものように朝練へ行く為に、学校への道を歩いていました。
見慣れた風景の中、異彩を放つ存在を見つけたのはその時です。
「雪ん子、ですかね…」
しかし、可笑しいところが幾つかある。
まず、ここは東京です。雪ん子がいるような場所ではありません。
それに今は4月。春です。季節的にはズレています。
そして大きさ。小さいです。人間の子供にしては小さ過ぎます。
さて、どうしたものか…と考えていたら、その生物は此方に気付いて視線を向けました。
見れば……驚きました。雪ん子は人間ではなかったからです。
三角形の黒い顔。大きな口。
見たことの無い生物を食い入る様に見つめると、その雪ん子は僕に近付いて来た。
「君は、どこから来たんですか?」
普通、動物にそこまでの知能は無く、あっても人間の3歳程度です。
しかしこの雪ん子は僕の言葉に首を傾げました。
まるで、言葉を理解しているかの様に。
「僕の言ってる事が分かるんですか?」
「ユッキー!」
「そうですか。凄い子ですね」
ニコニコと笑う雪ん子に微笑む。
けどどうしましょう。今は人通りも少ないから安全でしょうが、もうすぐ通勤通学ラッシュです。
警察沙汰になって研究所送りになってしまう。あまりにも可哀相だ。
「どこかに隠れていた方がいいです」
「ユキー?」
だっこして元来た道を戻り、近くにある公園の遊具に隠す。
小さい子が遊んだりするかもしれないが、この遊具は丁度影になっていて人目が行きにくい。
さっきの場所よりは安全でしょう。
「今日は早帰りなので、学校が終わったら迎えに来ます。それまでここに隠れていてください。出て来ては駄目ですよ」
「ユ…ユキ?ユキー?」
「えっと…言ってる事はわかりませんが、お腹が空いているなら僕のお弁当を置いておきます。毒などは入っていませんから、安心して食べてください」
家に連れて帰って、こっそり僕の部屋で飼えばいいでしょう。
柔らかい頭を一撫でして、僕は学校へ足を向けた。
prev /
next
1 / 3