拒絶するは、何の為

目を覚ますと知らない天井だった。

どこだろうと思って首だけを動かしてみると、視界に入る白いカーテン。鼻を突く消毒液の匂い。

極めつけに、どこまでも白く綺麗なベッドとシーツ。



「……ここは…」

「保健室だよ」



軽い音がしてカーテンが開かれる。

反射的にそっちを見れば、見たことのある爽やかフェイスが立っていた。



「…不二先輩」

「こんにちは。怪我の具合はどう?」

「平気です」



桃城が所属する男子テニス部でも、特に人気が高い不二先輩。歳は一つ上の3年生。

先輩が私を保健室に?あんなジメッとした校舎裏から、ワザワザ…?

あそこは誰も寄り付かなくて、休憩するにはもってこいの場所だと思ってたんだけど。

気を失う前までは誰も居なかった筈だ。少なくとも人影を見てはいない。

偶々通りかかった、なんていうことは無いだろう。だとすれば、



「覗き見なんて、ご趣味を疑います。意外と性格が悪いんですか?」

「偶然だよ。校舎裏に来たら、女子数人が君と話してて、君が気絶したところを僕がここに連れて来たの」

「胡散臭い笑みと一緒に言われると嘘っぽく感じますよ」



一部始終を見られてた、か。

私が呼び出され、あること無いこと言われ、反論しないままやられていたのを。

モテるヤツっていうのは、皆して盗み聞きとか覗き見が好きなのか。涼太だって、そうやって観察してたし(番外編参照)。

普段視線を集めていると、気付かれない様に隠れる術が身についたり?

そしたら誰でもミスディレ出来るじゃん。便利だねぇ。



「現実逃避しているところ悪いけど、本題に入るよ」

「はぁ」

「いつから、あんなことされているの?」

「そうですね…6月に入ったくらいですかねぇ」

「何で、僕達に何も言わなかったの。ワザとだよね、僕達を遠ざけたりしたのは」

「そこまで分かっていらっしゃるなら、説明など不要なのでは?」



巻き込みたくなかった。自分の所為で誰かを傷付けたくなかった。

そういう建前で隠して、本当は、自分が臆病なだけ。

考えなかったワケじゃない。信頼出来る教師に言ったり、間接的な原因になっているテニス部に相談したり。出来なくはなかった。


でもそんなことをしたら、彼等の足を引っ張るじゃないか。

彼等の時間を奪うじゃないか。

折角才能があるのに、それを伸ばす時間を割いてもらうのは申し訳なくて。

私が我慢すればそれで済むから。だから、我慢していた。



「私は、貴方達を責めるつもりはありません。これは私が招いた不祥事。自分で片付けます」

「原因は僕達だ。君1人でやる問題じゃない」

「いいえ。私が距離を測り間違えたのがそもそもの原因です。桃城と親密になり過ぎましたし、昼食まで誘って頂くなど、私の身にあまる行為でした」



彼等は光側、私は影側。

元々関われない筈だった。何かの間違いが起こっただけのこと。



「…罪悪感を感じていらっしゃるなら、一つ、お願いが」

「何だい?」

「この件を、今日のことを、誰にも口外しないで下さい」



不二先輩は、早々開かない目を少しだけ開いた。

その目にあるのは驚きか、呆れか。

個人的には呆れてこの場を立ち去ってくれる方が有難い。



「これは、私の問題です」



誰にも解決なんてさせない。

誰にもこの件に関わらせない。



「私が片をつけます。邪魔しないで下さい」



自分で蒔いた種。自分が招いたこと。

尻拭いを押し付ける気は無いし、堂々と無視していてほしい。


ねぇ、不二先輩。約束して下さいよ。

そうすれば少なくとも、貴方達に害は無いのだから。

だから、だから。――放っておいて。





突き放した腕の痛みを忘れるな


mae ato
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