とあるモデル少年の通話録

昼休み。昼食を食べ終えた俺は、スマホを取り出して電話帳を呼び出し、ある人物の名前をタッチする。

コールが続いた後、プツッと電話が繋がった音がした。



「もしもし、今大丈夫ッスか?」

《あー……うん、平気。何、どうかした?》

「いや、声聞きたいなーって思って」

《そういうのは恋人に言いなさい》



台詞がお母さんみたいな、電話の向こうに居る彼女。名前は黒子朔夜。

俺の世界を変えた1人目の人物。2人目はもちろん青峰っちだ。

彼女を一言で表すなら「面倒くさがり」が当て嵌まるくらいの面倒くさがりだけど、芯がしっかりしてるって言うか、上手く言えないけど、とても強い印象を持つ。

俺の、憧れの人。青峰っちや双子の弟の黒子っちとはまた違った能力を持つ人。



「最近どうッスか?俺は仕事の方が忙しくて大変ッス」

《でも部活には出てるんでしょ》

「そりゃそうッスよ!折角1軍に上がれて青峰っちとバスケ出来るんスから!」

《全中もあるもんねぇ。行けたら応援に行くよ》

「えー出ないんスかぁ?」

《何で帝光中じゃない私が試合に出なきゃいけないの。テツヤが居るんだから私必要無いでしょ》

「そんなことないッス!朔夜っちが居てくれるだけで安心感が違うんスよ!」

《…ありがとう、って言っておくね》



溜息を吐いたのが分かった。「酷いッスよ〜」と言えば《これくらい普通》と返って来る。

朔夜っちは、俺が1年の頃に出会った。

その頃からどこか冷めていて、モデルになってから周りにちやほやされているのが当たり前みたいになっていた俺には衝撃を与える人物でもあった。

モデルの黄瀬涼太ではなく、帝光中の黄瀬涼太として見てくれる、数少ない人。



「それで、朔夜っちは今どんな感じなんスか?」

《どんなって……別に普通だけど》

「バスケはしないんスか?」

《バスケねぇ…。好きだけど、今はちょっと忙しくてストバスにしか行ってないなぁ》

「俺、また1on1やってほしいッス」

《えー。あんた達とやるの疲れるのに…考えとく》

「来週の土日、また帰って来てよ。黒子っちだって会いたがってるッスよ?」

《テツヤが?うーんどうしようかな、……っ》

「朔夜っち?」

《何でもない、大丈夫》



一瞬だけ、息を詰めた様な気がして。

声を掛けてみるが、華麗にスルーされてしまった。朔夜っちは黒子っちと同じく感情があまり声に出ないから、こういう時は表情無しでは分からない。

本人が何でもないと言ってしまえば、それ以上俺に出来ることは無い。



「ならいいッスけど。ひょっとして、今取り込み中?」

《取り込んではいない、かなぁ。本当、平気だから。
この間寝不足でちょっとヘマしてねぇ。寮の部屋で転んだんだよ。だからまだ身体が少し痛くて》

「だ、大丈夫ッスか!?怪我とか…」

《大丈夫だって言ってんでしょさっきから。足捻ったりはしてないし。体育館で滑るよりよっぽどマシだから》

「そうッスか?」

《バスケはまだ勘弁したいけど、治ってきてるから》

「ならいいんスけど。お大事に」

《うん。…あ、そろそろ時間だ》

「授業ッスか?」

《そう。次社会なんだよねぇ》

「ご飯の後に文系科目ッスか…」

《あんたは文系でも理数系でもダメじゃん。まぁ、眠いよねぇ》

「そうなんスよねー…」

《涼太は寝ないでよ。毎回テストヤバいんだから》

「うぐっ、一応頑張るッス…」

《そうして。それじゃあね》

「はいッス。また」



通話を終了させ、画面を見ると、まだ朔夜っちの名前が載っている。

朔夜は自分で転んで身体を痛めた、とか言っていたけど、どうも怪しい。

普段から淡泊で声のトーンがあまり変わらない彼女の機微を感じ取るのは難しいけれど。



「…何も無きゃ、いいんスけど」



窓の外に広がる青空を見て呟いた。





透き通った空色を持つ白雪姫へ向けて


mae ato
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