首下にナイフを突き付けろ

桃城やテニス部と距離を取り始めて早3日が経った。

隣の席の桃城はともかく、他の部員はミスディレクションで逃げられるから便利なものだ。

で、ここ3日で変わったことと言えば。



(今日は数学の教科書か…)



イジメがエスカレートしたってことくらいだろうか。なんて嫌な報告だろう。

私がテニス部と距離を取って何を思ったのか、更に行為がエグくなっていった。

上履きが無くなってから、体操服がトイレに突っ込まれ、教科書がボロボロにされる。

そして遠巻きに私を嘲笑う輩と、コソコソ噂をする輩。

見て見ぬフリをして「自分は関係無い」アピールをする輩。

予想はしていたけれど、ここまで露骨と言うかテンプレ通りだと、辛いを通り越して呆れが出て来る。



「はよーっす!」

「あ、おはよう桃城くん!」

「朝練お疲れ様っ」

「サンキュー!」



いつも通り朝練を終えた桃城が教室に入ると、クラスの女子が我先にと前に出て話し掛ける。

帝光に居た頃見た涼太もあんな感じだったっけ…。人気者は凄いねぇ。

ぼーっとその様を見ていると、桃城と思いきり目が合った。



(ま、放っておいていっか)



今の状況で私に話し掛けるなら、桃城を本気で罵倒しよう。

大切なのは、人の目に映る関係性を変えること。

私は桃城とはただのクラスメイトで席が隣なだけだと認識させる。

桃城とクラスメイトAは何の関係も無いと分かれば、テニス部とも関係無いと思われる筈だ。

そうなりゃ私のイジメの被害も減る。万々歳だ。



(辛いことがあるとすれば、皆に一切説明が出来ないことくらいかねぇ)



「イジメに遭ってるんで皆のこと無視しますね」なんて言ったところで、全員素直に首を縦には振ってくれないだろう。

それくらい彼等は真面目で堅実で仲間思いで他人を放っておけないタイプ。

桃城なんかは自分に正直だから、多分まともに嘘も吐けない。

私と仲が良くないフリを頼んだところで違和感たっぷりの演技しか出来ない。

それじゃあ意味が無い。だったらいっそのこと私が本当に嫌われるくらいにまで冷たくした方がマシだ。


恋する乙女が持つ狂気の刃の矛先は、私だけに向けばいい。

私はそれを受け止めて、ただ切り刻まれればいい。

そうすれば誰も傷付かないし手順も踏まなくていいし。第一面倒くさくない。一番手っ取り早い方法だ。

ひたすら時間が過ぎるのを待って、事が収束するのを待つ。

例え私が怪我しても心配する人はここの学校には居ないだろう。



(干渉するな、傍観しろ、黒子朔夜。お前が最も得意とする行為でしょう?)



騒がしい隣を無視して、私は机に突っ伏す。

全ての音と視界を遮断して、殻に閉じ籠る様に、私はそっと目を閉じた。





自らの血で林檎を染める


mae ato
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