球技大会終了
「女子バスケの部&男子テニスの部優勝を祝して、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!」」」
おーおー盛り上がってますねぇ。
なんて、少し離れたところから見物する。
球技大会が終わり表彰式が終わると、我がクラスでは祝勝会が開かれた。
女子バスケと男子テニスで同時優勝。毎年クラスで優勝する競技はバラけるらしいが、今年は私等のクラスが二つ独占したんで大盛り上がり。
担任まで舞い上がっちゃって、全員にジュースとお菓子を用意してくれたくらいだ。
流石は私立校の教師。お金持ってるんだねぇ。
「朔夜、ちゃんと飲んでるか?」
「あ、桃城。大丈夫、しっかりリンゴジュースを頂いてます。
遅れたけど、男子テニス優勝おめでとう。ダブルス苦手じゃなかったっけ?」
「サンキュ。苦手なんだけどよ。相手が海堂だから絶対負けらんねぇじゃん?」
「成程ねぇ…」
「そっちも優勝おめでとう。朔夜以外初心者だったんだろ?それで去年関東大会まで行った奴等に勝つなんてやるじゃねーか」
「そうなんよ、もっと褒めてくれへん?」
「いきなり出て来ないでよ川瀬……」
私と桃城の間にニョキッと顔を出した川瀬は「ごめんなぁ」と笑っている。
それ全然謝ってないよね?
そうしてる内に、他のメンバーもやって来た。
「殆ど朔夜のお蔭よねー。ホント感謝してるわ」
「朔夜ちゃんお疲れ様でした」
「ありがと水野。田村も頑張ってたじゃん」
「最後のシュートは感動モンだぜ。古沢のヤツ」
「そ、そうかな。結構がむしゃらだったから、あんまり覚えてないんだけど…」
「うん、あれは感動した。ブザービーターだったし」
「朔夜まで…。あれは朔夜がシュートのコツを教えてくれたからだよ。
それに、バスケ部の皆ともまた話せるようになったし。朔夜には感謝しきれないな」
「んな大袈裟な」
試合後、古沢は女子バスケ部の面々とのゴタゴタを解消させた。
何でも、あの5人に1人ずつ謝られたらしい。
古沢も謝っちゃって、なんか謝罪会みたいだったと聞いた。
曰く「あたしがもっと皆と話し合っていれば、ここまで拗れなかったんだよ」と。
いや、そーじゃないと言うか、古沢だけの問題じゃないと思うんだけど。
ちょっと気になったけど、あまり深くは掘り返さなかった。
お互いに理解して、お互いに認め合ったんだったらいいんじゃないかな。
「皆が言ってたよ。『水色髪の子にも謝りたい』って」
「えー…。悪いけど『気にしないで』って言っといて」
「何で?謝ってもらえばいいじゃない」
「別に私は気にしてないし。そもそも売り言葉に買い言葉だったんだよ」
「とか言ってー。本当は『面倒くさい』とか思ってんとちゃう?」
「川瀬よく分かったね」
「アンタねぇ……」
「朔夜、そりゃねーよ……」
「朔夜ちゃんらしいと言えば、らしいですけど…」
何さ、皆して。そこまで苦笑しなくてもよくない?
だって事実なんだもん。謝罪をしてもらう程、私は気にしてないし。謝られるのも何か悪い気がするし。
リンゴジュースを一口飲むと、制服のポケットから振動が伝わる。あ、携帯か。
何だろうと見ていると、メールが一通来ていた。差出人は…………げぇ。
「どうしたんだ?」
「いや、ちょっとメールが…」
「誰から?」
「彼氏さんですか?」
「まさか。止めてよ絶対ヤダ」
「そんな全力で拒否しなくても…」
「で、誰からなのよ」
「前の中学の……友達?みたいな」
「何で疑問系なんや?」
「だって…友達って言うよりはそこまで交流してなかったし、だからと言って喋って無いってワケじゃないし、寧ろ結構喋ってたけど、そこまでつるんだことは無いって言うか……説明が難しい」
From 赤司
Sub 元気にしてるかい?
今日、そっちの学校は球技大会だったんだってね。
バスケの部で出たんだろう?
朔夜のことだから優勝したんだろうから、とりあえずおめでとう。
また暇が出来たら遊びに来てくれ。こちらにとっても有意義な練習になる。
P.S
黄瀬が朔夜に会いたいそうで毎日叫んでるよ。青峰も最近はつまらなそうでね。
出来れば近い内に帰って来てくれると嬉しいよ。
緑間の胃がそろそろ限界みたいだから。
「(何で今日が球技大会なのか知ってるんだとかどうして私がバスケで出てると分かってるんだとか何で優勝したことをドンピシャで当てられるんだとか色々訊きたいけど)
緑間頑張れ。あと涼太は今度シバく」
「いきなりどうしたのよ」
「いや、何かイラッと来たから…」
「涼太って誰や?」
「黄瀬涼太だよ」
「それってモデルやってる人じゃない?」
「多分それ」
「知り合い!?」
「朔夜の…何だ?バスケ部仲間?」
「桃城、当たってるよ。疑問系にしなくても」
「本物だったらシバいちゃダメですよぅ」
「外面がいいのは認めるけどねぇ。実際はただのワンコだよ?」
「その説明はどうかと思うわ」
だった事実だし。
にしても涼太五月蝿くなってんのかー…。行きたいけど行きたくないな。面倒。
でも大輝のことは気になる。ストレス溜まってるだろうから爆発する前に様子見に行きたい。
緑間も、赤司が「限界近そう」って言ってるからヤバいっぽいし。
紫原にはお菓子買っていけば大丈夫かな。
さつきはどうしてるだろう。相変わらず美人で、あの個性の塊でしかない奴等の為に頑張っているんだろうか。
赤司は……アイツは心配ないか。メールの文面見る限りいつも通りだし。あの魔王が早々過労で倒れる筈がない。
片割れたる弟は、練習で吐かなくなったかな。ミスディレクションも安定してきてるし、今度会った時は更に影が薄くなっているかねぇ。
――なんて。
自分から離れておいて、結構気にしてる自分が居る。
あの場所が怖くなって、物足りなくて、自ら捨て去ったっていうのに。
今居る場所も、それなりに好きになってきた。友達も出来た。知り合いが増えた。交流もしてる。
それでも、あの明るかった場所を捨て切ることは出来ないんだろう。
あそこは私が“私”として形作られた場所。
今がどれだけ素敵でも、あそこから逃げ出しても、心地いいと感じてしまう。
極彩色の彼等の下で笑う日々を思い出して、心配してしまうんだ。
(私は自分に甘いんだろうか。ねぇ、テツヤ)
努力の塊たる片割れの後ろ姿を不意に思い出して、リンゴジュースを飲み干した。
胸に残る、拭い去れない想い