球技大会本番・午後 1
『……もう休憩したら?』
『…………まだ、平気…で、す』
体育館の床の上で倒れてる、容姿が自分とそっくりな片割れにスポドリを渡す。
肩で息をして、汗だくで、足も腕もガクガクのクセに。まだやる気か、コイツは。
『無茶して身体壊したら元も子も無いでしょ』
『でも、僕は…やりたいんです……』
『バスケが1日やそこらでいきなり上手くなるワケない。ちゃんと休みな』
『――それでも』
スポドリを少しずつ飲みながら、片割れは必死に私の方へ目線を向ける。
その瞳には、僅かに光が宿ってた。
諦めて堪るか、と。
『僕は、バスケが好きですから』
その言葉と、片割れが再びボールを手に走り出すのは同時だった。
*****
あの頃の片割れは、全然バスケが上手くなくて…それでも続けたいって聞かなくて。何回ヒヤヒヤしたことだろう。
毎日毎日、誰より遅くまで居残り練習をしていて。体力も人並みにしかないのに。
正直に言って、私より下手なのに。
片割れが私に対する不満を真っ向から言うことは一度も無かった。ストレスにはなってたかもしれない。双子なのに、私等は全く違う才能を持っていたから。
だからこそ私は信じられたのかもしれない。片割れの才能を。可能性を。
絶え間無い努力でドン底から這い上がって来た片割れ。
それを知ってるから、絶対に負けない。負けられない。
ここで負けたら片割れに顔向け出来ないし、ここまでついて来てくれた4人に申し訳ない。
折角決勝戦まで、登り詰めたんだから。
「絶対、勝たせてもらいます」
「精々、今の内に吠えておきなさい」
ピッ、と試合開始のホイッスルが鳴る。
決勝戦、我等8組対2組の試合。ジャンケンの結果、先攻は2組だ。
「遅い!」
「あっ」
早速水野が抜かれた。
2組の6番、ドライブが速いな。一瞬でフェイク掛けて抜き去った。
手加減はしてほしくないけど、ちょっと初心者相手に大人げない気もするなぁ。
そのまま田村も抜き、続いて私も抜き去ろうとする6番。向こうは私を初心者だとでも思っているんだろうか。フェイクが若干雑になってる。
そのスキを見逃してあげる程、生易しい人間じゃないよ、私は。
「はい、頂き」
「なっ!スティール!?」
正解です。
抜かれるほんの少し前。丁度真横に並んだところを狙って手を出し、ボールを取る。
そのまま流れる様に1回ドリブルして、シュートモーションに入った。
今いる場所はハーフラインちょい手前。うん、問題無し。余裕で届く。
いつも通り指を掛けてボールを回転させ、高く上げる。もちろん、行き先はゴールど真ん中。
ストン、という音が似合う程丁寧に、ボールがネットを揺らした。
「先制点、もーらい」
「あそこから、届くなんて…ッ」
「ボーっとしてるんじゃないわよ。まだ試合は始まったばかりなんだから」
4番さんの言う通り、まだ始まったばかり。勝負はここから。
ぶっちゃけ、こっちの方が不利なのは相変わらずなんだ。今の内に点を稼ぐに越したことはない。
相手のボールを再び取って、もう1回スリーを決めた。
*****
「つ、よい…」
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
「っふう…」
試合開始2分。最初は勝っていたのに、形勢が見事に逆転していた。
田村、水野、川瀬の体力がギリギリになってきたのだ。
元から水野は体力がある方ではない。加えて他の2人も、慣れないバスケでずっと全力勝負。限界が来るのは当然この決勝戦だった。
古沢は唯一のバスケ部員として警戒されているのか、凄いプレッシャーが掛けられている。疲労は一目瞭然。
一度お昼を食べて回復しているとはいえ、精神も完全に回復出来るかと言われたらノーだろう。
しかも相手が去年関東大会まで勝ち進んだ時に出場していたメンバー。点差が、詰められない。
現在20-8で12点ビハインド。まさか2分で20点も奪われると思ってなかったからな……油断してた。関東大会まで行ったのは伊達じゃないか。
しかし、このままじゃ確実に負ける。相手に「負けない」と言った以上、簡単に屈するのは数少ないプライドが許さない。
仕方ない……やりたくなかったんだけど。ここまで点差が離されたんじゃ、そうも言ってらんない。
覚悟を決める様に、息を吸う。
そんで、周りにいる皆に一声掛けた。
「どうすんのよ朔夜」
「私が点差を0に戻す」
「そんなこと…」
「出来る。だから、ちょっとだけ協力して」
「何をすればいいんや?」
「ボールを全部私に回して。あとは、私がやる」
これは、『黒子朔夜はキセキの世代より強い』と言わしめるモノ。
私が去年、まだ帝光中女子バスケ部8番を背負ってた頃。
全中決勝戦、後半2分で才能が開花して、相手をダブルスコアで倒した。
その時無意識に使った技とは言えない何か。
試合を見ていた赤司を始めとするキセキの世代が付けたその名は。
白雪姫の独壇場