メンバーとご対面

今日の午後は球技大会で一緒に出場するメンバーと練習をする日。

出来ればバスケ部の人が2人は居てほしいなぁ。

指定された体育館に行くと、もう既にメンバーが集まっていた。

……今気付いたけど、私クラスにどんな人がいるか把握してない。

女子となんて滅多に話さないし、話したとしても事務的な会話のみ。

いつも本を読んで、尚且つミスディレクションによって姿を認識させてない私に、いちいち話し掛けてくる人もいないし。

実際、会話する人物なんて隣の席の桃城くらいだ。

無愛想、無表情の私と戦ってくれるかどうか…。心配になってきた。



「あ、来た来た。黒子さん!」

「遅いわよ。早くして」



身長が高い子と、腕組みをしていた子が私を呼ぶ。

その他にも眼鏡をかけた子。ツインテールの子がいた。



「これでメンバー揃ったね。自己紹介しようか。
あたしは古沢麻由加ふるさわまゆか。よろしく!」

田村千紘たむらちひろよ」

水野美羽みずのみうです。頑張るのでよろしくお願いします」

川瀬恵かわせめぐみや。よろしゅう」

「…黒子朔夜。此方こそよろしく」



背が高い子が古沢で、腕を組んでいるのが田村。

眼鏡をかけてる川瀬に、ツインテールなのは水野か。

……濃いメンバーだな…。



「じゃあ早速練習しようか。ボールを持って、ドリブルから」

「シュート練じゃないの?」

「シュートも大事だけど、ドリブルが出来なきゃボールを運べないでしょ?」



そりゃそうだ。エンドラインから反対側のゴールまで持ってくにはドリブルが必要不可欠。

パスだけで繋げないこともないけど、帝光でもあんまりやったことがない。

と言うより必要がなかった。全員実力に自信があったから、ボール持ったら突っ込むし。



「始めは利き手で20回やって。終わったら反対の手で20回。それを2往復しよう」

「20回も…?出来るでしょうか……」

「ゆっくりでいいよ。途切れ途切れでいいから、ちゃんと20回数えてね」

「了解や〜」



各自ボールを持ち、ドリブル練習を始めた。

にしても20回か。少ないな。

これ、すぐ終わるんだけど。


ちらり、と横を見れば、田村がボールと睨めっこしながらドリブルをしている。

川瀬はにこにこしながらやってる。ドリブルじゃなくて、ただボールをついてるって感じ。

水野に至っては足にボールが当たってしまってコロコロと転がり、中々数が稼げていないようだ。

その側で、自分も練習しながら水野にドリブルを懇切丁寧に教えている古沢。

…なんか、実力が見えた気がする。



「あれ?黒子さん終わったの?早いね」

「え、ああ…まぁ」

「ズルしたんじゃないでしょうね」

「別にしてませんけど」

「こら千紘。突っ掛かんないの」

「だって。私達のクラスにバスケ部は麻由加しかいないのよ。なのにその麻由加より早く終わるなんて不思議じゃない」

「……はい?」



今、なんて言った?

『私達のクラスにバスケ部は麻由加しかいない』…?



「ということは、古沢以外は全員初心者ってこと?」

「せや。ウチと千紘と美羽は授業以外でバスケしたことないんよ」



なんてこったい…。

練習してるのを見てたら、なんとなく想像はしたけど。

事実でしたか。どうしようこれ。


私は球技大会の優勝商品である売店の半額券が欲しくてバスケを選んだけど、まさか古沢以外全員が初心者。

しかも私達と同じ学年には去年関東大会に出場した人達がいる。

優勝するには必ず当たるのに、戦力がまるで足りないじゃん。



「だいたい!いつも本読んでばっかりでクラスのことに無関心なアンタのことを簡単に信用出来ないのよ。無表情で、何考えてるんだか分かりやしない!」

「ち、千紘ちゃん。少し言い過ぎでは…?」

「アンタもよ、美羽!」

「ひぅっ!」

「オドオドしてれば誰かが助けてくれると思ってるの?そんなんだから、何をやってもドジなのよ!」

「ご、ごめんなさい…」

「それから恵!ずっとにこにこしてなんなの?バカにしてるワケ!?」

「これは昔からや〜。朔夜の無表情もダメでウチのにこにこもダメなら、どんな顔してればええねん」

「同じ表情だから気色悪いのよ!それくらい分かんなさい!」

「心が読めるワケやないやから、勘弁してぇな」

「千紘っ、言い過ぎ!これから3週間はこのメンバーで練習していくんだよ。始めからこれでどうするの!」

「五月蝿い!どうせ麻由加にだって分かってるんでしょ!?
初心者4人に、バスケ部と言えどベンチにも入ってないアンタ。周りと力の差は歴然じゃない!」



初心者4人って…。誰が初心者だ。

面倒くさくなってきた。この人、癇癪持ち?

帰りたいな…。疲れた。



「はぁ……」

「ちょっと、何溜息吐いてんのよ!」

「いや、もう面倒だな、と」

「なんですって!?」

「千紘!止めなよ!」



あー、もう。

この人、私が実力が無いのにやる気も無さそうなのが気に食わないんでしょ。

だったら手っ取り早く、実力を見せた方がいいな。

そう思い、持っていたボールで軽くドリブルする。

そのままモーションポーズを取って……一番遠いゴール目指してシュートした。



「ここから投げた…?」

「そんなの入るワケないわ!」



それがさぁ、残念なことに――入っちゃうんですよねぇ。

放たれたボールは綺麗な弧を描き、私が狙った通りのゴールに入った。

リングに当たらず、スッポリと。ネットを揺らして。



「な…っ。ウソでしょ!?あんなの普通入るワケが…」

「どう思ってもらっても構わないよ。無表情なのもやる気が無いのも自覚してる。
でも…バスケの実力ならあるから、安心してくれる?」



その場の全員が唖然としている。

てか、やっちゃったよ。今まで目立たないように生きてきたのに、かなり目立つことしちゃったよ。



「す…凄いよ黒子さん!エンドラインより外側から、反対側のゴールにシュートなんて!3Pどころじゃないよ!」

「へー。カッコええなぁ」

「朔夜ちゃんって、バスケ出来るんですね!」

「前の学校でバスケ部だったし…」



帝光では当たり前のようにやってたからこんなに褒められたの久々でくすぐったい。

緑間も、今はまだハーフラインまでしか届かないからなぁ。


田村は未だに目を見開いていて、私を見ていた。

そりゃあ、知ってるよ。普通の人はここまで出来ないって。

それでも出来てしまうんだから仕方ない。私だってここまで望んじゃいなかった。

でも、今はちょっと感謝。お蔭で癇癪持ちを静かに出来たし。



「納得した?」

「…っ、ふん。……悪かったわよ



声が小さかったけどちゃんと聞こえた。

なんだ。田村って根は真面目なんじゃん。



「千紘はツンデレなんよ〜。もう少し素直になりぃや」

「だ、誰がツンデレよ!」

「まあまあ。あ、朔夜ちゃん、麻由加ちゃん。バスケ教えてくれませんか?」

「いいよー。それじゃ、次はパス練習しよっか」

「朔夜、手取り足取り教えてぇな」

「私でいいなら」

「負けてらんないわ。麻由加、美羽、特訓よ!絶対に1週間でバスケをマスターしてやるわ!」

「はい、頑張りましょう!」



気合入ってるなー、田村。

そういえば、まだ1年生の時、テツヤと一緒に練習したなぁ。

『強くなりたいから教えて下さい』って言って来て。懐かしい。

…少しは真面目にやりますかね。





前途多難。けどやる気は充分


mae ato
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