朝の静けさ

カリカリ、とシャーペンを動かす音だけが響く。

私は朝早くに教室へ来ていた。

まだ誰もいない、静かな教室はとても心が落ち着く。

まぁ、何の心配も無ければの話なんだけど。



(うーん、やっぱり桃城の点数が伸びないんだよねぇ)



特に数学。これは問題どころじゃない。

恐らく、『嫌いな教科』という意識が無意識に拒絶してるんだと思う。

とってもらわなくちゃ困るんだよ。数学は結構大切なんだよ?

他の教科も平均…というかギリギリ大丈夫だろう、という場所にいる桃城は、一教科落とすだけでかなり危ない。

やれやれ、どうしたものかなぁ。



「……めんどくさ」



最近、寝る時間が遅い。

夜に予習と復習をして、その後テスト勉強して、更には男テニの成績アップの為のプリント作成……。

流石に私も疲れが溜まる。



「まだ生徒も来ないし…ちょっと、寝よ」



眠い目を擦り、回らない頭でちゃちゃっと机の上を片付けて、私はそっと目を閉じた。


*****


桃城side.


朝練も終わり、教室を目指す。

テスト勉強で疲れているからと、いつもより30分も早く終わってしまった。

なんか、体力余っちまったな…。



「――あれ?」



席を見れば、その隣に見慣れた水色が目に入った。

机に突っ伏すようにして、すやすやと気持ち良さそうに寝ている。


こいつがこんな早く来てるなんて珍しい。

低血圧なのか、学校に来るのはチャイムがなる少し前。来たとしてもさっさと机に座り、荷物を片付けて寝てしまう。そのままHRを過ごし、授業開始1分前になると起きるのだ。

それでも3時間目までは覚醒しないようで、ボーッと空を見ているが。


そんな彼女がいったい、どうしたんだろう。



「…ん?これは……」



俺の机に置かれた1枚の紙と、一冊の小さなノート。

メモ帳か何かだろうか。


紙には数学の問題が書いてある。手書き、だよなこれ。


……もしかして朔夜のヤツ、手書きでプリント作ってんのか?


そういえば、そうだったかもしれない。

部室で勉強する時、毎回最初と最後にやるミニテスト。

得手不得手を確認する為のものだと言っていた。

それを俺達の為にわざわざ、しかも手間の掛かる手書きで…!?


気になってメモ帳も開いてみる。

予想通りというか、こっちには俺達のミニテストの成績やそれを元にした分析結果が書いてあった。

それだけじゃなく、テストの出題傾向や出題率が高い例題。

中には教師ごとの性格による出題分析まで。



「こんなのする時間、どこにあるんだ…?」



いや、ある筈が無い。

朔夜は部活はやってないが、最近は俺達のテスト勉強に付き合ってもらってる。

帰る時間は同じなんだ。

確かに寮に入ってるから家は近い。

それでも一人で生活してるんだから、何かと時間は取られ易い筈だ。


それなのに、まさか。

ここまでやってくれてたとは、思ってなかった。


プリントはきっと教師から貰った物で、教えていることもただ範囲の中に入ってるからだと思ってた。

けど実際は、プリントは沢山の出題分析から厳選した問題を手書きで作成し、個人に合わせて範囲を絞って教えてくれていたのだ。


たぶん、その疲れが出たんだろう。

その本人はとても気持ち良さそうに、ストレスを発散させるように眠っている。



「……サンキューな、朔夜」



5月の心地良い風が、そっと朔夜の髪を撫でた。





伝える感謝

mae ato
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