試合・後編 5
始まった第4Q。
驚いたことが、一つあった。
「6番…まだ出るんだ」
そう、あの6番。
あんだけコテンパンにしたのに、まだコートの中にいる。
へー。根性あるなぁ。
「また来たッスね〜」
「実力が分からない筈は無い。意地だろうな」
「無駄な努力だねー」
「――いや、雰囲気が変わった」
赤司が静かに告げる。
確かに、前よりもオーラが違う。相手もやる気十分って感じだ。
「ここからは気が抜けないな。朔夜」
「ん?」
「パス回し、一歩早めに頼む」
「オッケー」
ボールは相手から。
けどこれくらい、すぐにカットできる――
「……え?」
取ろうとしたボールは、6番の手の中に納まっていた。
視界に、私を捉えてる――?
「やられた分は返すぜ、9番よぉ」
「ッ!」
直後、キツイドライブが私に向かってきた。
これは、取れない。
「オラァ!!」
ガチャン!!
6番がそのままダンクをした音。
いや、ちょっと待て。私を抜かしたところで、他にも涼太とか緑間とか赤司とか…ゴール下には、紫原もいる筈。
なのに何故、ドライブ一直線でシュートが出来た?
その答えは、いたってシンプル。
「お礼してやるよ。来い、9番。オレは負けねー。負けてたまるか!!」
キセキの世代の防御を一気に突破するほどの突撃力を、相手が持っていた。
「これは…厄介なことになったなぁ……」
6番は、追い込まれて力を発揮するタイプの。
才能持ちだ。
「赤司、あいつと私の一対一、やらせてくれない?」
「…危険だぞ。相手はここまで追い込まれてあの集中力だ。僕でも、敦でも止められなかった奴をどうやって倒すつもりだ?」
「だからこそだよ。恐らく相手はキセキ程じゃない。けど、一定期間にだけ爆発的な才能を発揮する。だったら私がやった方がいい」
キセキより強いらしい私がね。
そう言えば赤司は眉間に皺を寄せた。
「“独壇場”を使うのか」
「それが一番手っ取り早い。皆には悪いんだけど……」
「――仕方ない、か。いいだろう。僕達はサポートに付く。作戦変更だ」
「ごめん、ありがとう」
目には目を、歯には歯を。
才能には、才能だ。
*****
ダンクダンク。
スリーポイントスリーポイント。
レイアップ。
「はー…はー…!」
「ぜぇ…ぜぇ…!」
第4Q開始1分。
私と6番は点取り勝負をしていた。
第3Qでは50‐25だったのが、今じゃ60‐40になっている。
くっそ点差が縮まる…!
「緑間!!」
パスを貰ってシュートを撃つ。
これで67−40…。
「オラッ!!」
ガチャン!!
しまった、またダンク……!!
考え事をする暇もない。点差は変わらず、気を少しでも抜けば持ってかれる。
それだけは避けたい。
相手は男子だし、体力はやっぱり向こうが上。
独壇場を使ってるのにこんなに強いのか。
とはいえ、ここまで来て弱音を吐くわけにもいかない。
私はボールを手に走った。
*****
残り、1分。
最後の方で私の体力にもちょっと限界がきてるみたいで、27点差が10点差まで縮んでしまった。
負けられない。
こんな思いをしたのは、いつ以来だろう。
「ぜってー、止める!!」
「やってみなよ!」
私がこんなに苦しめられたのはいつ以来?
ここまで白熱できたのはいつ以来?
――ああ、思い出した。
1年の全中、決勝戦以来か。
好きなバスケが、嫌いになる瞬間。
あれからどうしてもボールが触れなくて。バッシュの紐が結べなくて。ゴールに手が届かなくて。
結局時の流れに任せて、気づけばまた触れるようになったけど。
あの頃が、一番世界が冷たかった。
けど、違うんだ。
まだ戦ってくれる人はいる。
それが分かっただけでも、よかったかも。
「っつぁああ!!」
「おりゃぁああ!!」
私がシュートを決めた瞬間。
試合終了のブザーが鳴った。
勝利を告げるブザー音