試合・後編 3
“インビジブル”
元々の意味は、英語で『目に見えない』。
正にその通りに働くと思っているけど。
「消え、た?」
「そう、残念でした。あんたじゃ私は止められない。見えないもんねぇ」
ミスディレクションの応用技、インビジブル。
私のオリジナルで、唯一絶対の技だ。
相手の視界を操作して、ボールごと、私の存在を消す。
「見えない私をどうやって止めてくれるのか、楽しみね」
今、ドライブで切り込みレイアップを決めた。
現在は45−25。相手には点を入れないようにしても、ダブルスコアまでにあと5点決めないといけない。
第3Q、残り40秒。
まずは3Pを決めてもらいましょうかね。
「というワケで、緑間、よろしく」
「何がというワケなのだよ!」
「そこはほら、空気を読もうよ。私、何回も同じことを繰り返し言うの嫌いだし」
「知らないのだよ!!」
「喧嘩しないで下さいッス!今は試合中ッスよ!?」
「ねーねー、朔夜ちん。お腹すいたー」
「え〜?試合が終わったらお菓子あげる」
「わ〜い」
「その前に勝ったらな。緑間」
「はぁ……。仕方ないのだよ」
何が仕方なくて、どこに溜息を吐く要素があるのかサッパリだけど。
緑間は頼りになるから、何とかなるでしょ。
「3P、一発。かましてやれ」
ミスディレでスティールしたボールをタップで緑間に渡す。
「外すなよ」と念を押して。
「馬鹿を言うな。今日の蟹座は1位。ラッキーアイテムであるパンダのぬいぐるみも完璧だ。
俺のシュートは決して外れないのだよ」
キセキの世代、長距離シューターの緑間。
「何故なら、人事を尽くしているからな」
帝光中7番。私の中での呼び名は“おは朝信者”。
あいつの3Pは、外れない。
綺麗な弧を描いてネットを揺らすボール。
緑間の放ったシュートが3Pで入った。
残り、30秒。
相手にあげる時間は無い。
「涼太」
「はい?」
「パスするから、ゴール下で待ってて。ブザービーター、よろしく」
「了解ッス!」
相手チームからのボール出し。
ここで点は取らせない。
「インビジブル」
パスカットをして、一気に攻める。
6番が追いかけて来ない。どうしたんだろう。
まあ、これはチャンスだな。
荒っぽくしろ、とまでは言わないけど、涼太にはコピーがあるから。
無暗に実力を出し過ぎ。
「決めろ!」
「はいッス!」
キセキの世代、スモールフォワードの涼太。
「これで…ダブルスコアッス!!」
私の中では“忠犬モデル”。
他人のプレイを吸収し、模倣する。
あいつに技を見せたら命取り。