練習 2
高く高く、高く跳ぶ。
そうすれば誰も届かないから。
速く速く、速く走る。
そうすれば誰も追いつけないから。
私だけの頂上を目指して、誰よりも手を伸ばす。
そして勝利を掴むんだ。
ガコン、と音を立てて落下するボール。
私はリングからぶら下がっていた。
「相変わらずムチャクチャだなお前!普通女子でダンクなんか決めらんねぇよ!!」
「知らないよ!だって出来るんだもん!」
「青峰はさっさと走るのだよ。オフェンスだ」
「紫原!絶対止めて!」
「うん、頑張る〜」
どこか抜けたような返事を返された。
とにかく、今は戻らないと。
さっき私はシュートを決めて、15−13。私達が13で負けている。
開始して2分。5分1Qだから、まだ余裕はある。
けど油断は禁物だ。なんせ相手はキセキの世代と言われているんだから。
というかこんな俺様達に負けてたまるか!!
「涼太!」
「了解ッス!」
「行きますよ、青峰君」
「おう!」
マズイ、このコンビは組むと最強だ!
大輝は涼太に任せたから、私はテツヤとやりますか。
因みに、テツヤに今のバスケスタイルを教えたのは私だ。
イコール、私もミスディレクションが使える。
とは言っても私の使い方は異種だけど。
「行くよ、テツヤ」
「負けませんよ。朔夜」
「こっちにもパスを回すのだよ」
「勝負ッスよ青峰っち!」
「いい度胸だ黄瀬ぇ!」
「ほどほどにね〜」
貴方はブロックに集中してくれ紫原。
私はテツヤにマンツーマンをする。
けどホントに見にくいねぇ。教えたのは私とは言え、どこまで身につけてんの?
「テツ!」
「…ッ!朔夜っち!お願いッス!」
「ちゃんと守ってよ涼太〜!」
私だってテツヤの相手は大変なんだよ!?疲れるし、何より見えないから面倒だし!
けどただやられるのも癪だから、こっちもミスディレを発動させる。
ここからはミスディレの掛け合いだ。
互いに視線を操作し合って、見えない状態になる。
目には目を。歯には歯を。ミスディレにはミスディレを、だ。
ガコンッ!
「あ!ちょ、紫原っ」
「ごめん朔夜ちん。無理だった〜」
「もうちょっと頑張ろうよ!オフェンスしなくていいから、せめてディフェンスぐらいはやって!」
面倒なのは私もだけど。
「はん!なんだよ朔夜。お前は黄瀬や紫原に頼んないと勝てねぇのか!?」
「……今、大輝なんて言った?」
「え、朔夜っち…?」
「朔夜ちん?」
結構低い声が出た。涼太と紫原がちょっと驚いてる。
けど、今のは聞き捨てならないんだよねぇ。
「だから、お前は誰かに頼んないと勝てねぇのかっつったんだよ!
そんなんじゃ俺とやるなんて無理だぜ!!転校して弱くなったんじゃねぇの?」
「………………へぇ〜。随分と面白い冗談を仰るんですねぇ大輝さん?」
「く、黒子っち、これ…!」
「ヤバいですね。青峰君、朔夜を怒らせましたから」
「だからバカなのだよ」
「あーあ。しーらない」
外野がごちゃごちゃ言ってるけど関係ない。
こうなったら徹底的にやってやる。
「涼太。私とマークチェンジして。テツヤにはつかなくていい。
紫原は今まで通りディフェンスのみ。絶対にゴール下は入れさせるな。
他の一軍はボール回し優先。キャッチしたボールは全部私達に回して。
分かったら……返事は?」
「「「「は、はい!!/はいッス!/は〜い」」」」
アイツには絶対負けない。
その生意気な鼻っ柱を折ってやるよコノヤロー。
「さ〜て。覚悟はいいかい?大輝君?」
負けてたまるか、コンチキショー。
*****
「どーだまいったかこの俺様野郎!」
「ちっくしょー!!」
結果、私の圧倒的な勝利。
これでバカな考えは止めることだな大輝。
私に勝とうなんて100年早い。
「ひゃー、流石朔夜っちッスね〜。見てるこっちが怖かったッス」
「朔夜が怒っている時に手を出すと危ないのだよ。おかげでやり辛い」
「あ、ゴメン。でも大輝にどーしても勝ちたくてさぁ」
「途中から赤司っちが入ったし。しかも朔夜っち側」
「おかしいだろうが!普通負けてる方に入るだろ!」
「せっかくなのに邪魔をしたら悪いだろう?」
「その変な気遣いの方がよっぽど嫌だわ!」
そう。途中から赤司が入るのは確定だったんだけど、何故か私のチームに入ってくれて。
どこかで交代するのかと思いきや、全然しないし。
まあ助かったけど。
「いやー。勝利はいいね。さっぱりする」
「負けた方のこと考えやがれ!」
「あれは青峰君が悪いと思います」
「げ、テツ…」
「あそこで挑発して朔夜を怒らせなければ、勝機はあったでしょう」
「……ッチ!悪かったな」
ホント素直じゃないよねぇ。
男子って面倒くさい。
「じゃあ大輝。帰りにアイス奢ってよ。それかチョコ。最低でも150円相当の」
「はあ!?何でだよ!!」
「負けたんだから当然でしょー?それに私を怒らせた罰ってヤツよ。それで特別に許してあげよう」
「上から目線ムカつく…」
「もう一回倒してあげようか?全部スリーポイントで」
「だー!!分かった!それで許せよ!?」
「よろしい」
最初っからそう言えばいいのにねぇ。
ま、そんな感じじゃないと盛り上がんないし。
結局離れられないなぁ。
この場所から。
けど前に居た居場所に帰って来るっていうのも。
偶には、悪くない。
仲間との時間