練習
土曜日、私は朝から出かけていた。
電車を降りて、待ち合わせ場所のコンビニに行けば、相変わらず影の薄い片割れがいた。
「久しぶり。テツヤ」
「お久しぶりです、朔夜」
そう、私は、本当に久々に。
元居た場所――帝光へと帰ってきたんだ。
「あー!朔夜っち!」
「やほー」
「あん?何でいんだよ」
「私が居ちゃ悪い?もう1on1してやんないよ?」
「テメッ、卑怯だろ!」
「どこがだ、ガングロめ」
「帰ってきたのか、朔夜」
「うん。おひさ〜」
「朔夜ちゃん元気だった?」
「まぁ、そこそこね」
体育館に着くなり、最初に話し掛けてきたのは涼太だった。なんとも予想通り。
続いてガングロこと大輝。1on1で私が勝ち逃げしようとしているのを知ってるから再戦しようとしている。
緑間は変わらないテーピングで、眼鏡を上げながら声を掛けてくれた。そしてラッキーアイテムを持って。
美少女な親友のさつきは抱き着いてくれた。ナイスバディですなぁ。
あ、口調が変になった。
「あれ、赤司は?あと紫原も」
「教師に呼ばれている。後から来るのだよ」
「そう。まーいいや。皆は準備体操とかアップ終わってる?」
「はいっス!」
「私もこっちに行くまで運動してきたから、ちょっと早いけど始めよーか。
赤司と紫原が来る前に1on1…出来れば3on3までやりたいねぇ」
「おっしゃ!おい朔夜!まずは俺とやれ!」
「えー。大輝と組むと疲れるもん」
「ハァ!?」
「じょーだん。いいよ」
「抜け駆けはズルいっスよ青峰っち!」
「はいはい。じゃあ次に涼太ね。緑間もやる?」
「お願いするのだよ」
「テツヤはー?」
「僕は最後でいいです。あまり相手になりませんから」
「気にしないのにー」
あはは、と笑ってバッシュを履く。
キュッキュッと体育館の床に擦り合せて、準備はオーケー。
さて、やろうか。
「行くよ、大輝!」
「おう!今度は負けねー!」
「それはどうだろうねぇ!」
私は勢い良く床を蹴った。
*****
「はー。やっぱりアンタ等とやると疲労感がハンパないわー。
流石体力バカ達はスゴイねぇ」
「おい何気に貶してんじゃねぇよ」
「そうッスよ!それに朔夜っちは俺等よりも全然ラクそうじゃないッスか!」
「あのねぇ。日々動いてるアンタ等と違って、私は今帰宅部なの。少しは労わってよ」
「――朔夜。来ていたのか」
1on1が終わり、休憩していると赤司と紫原がやって来た。
赤司は変わらないオッドアイの瞳で、紫原はお菓子をムシャムシャと食べている。
「やほー。お邪魔してるよ。ごめん、勝手に指揮しちゃってた」
「いや、むしろ有り難い。何をやっていた?」
「普通に1on1。で、今それが終わったからちょっと休憩中。次は3on3やろうと思ってる」
「そうか。なら3人じゃなくて5人のゲームにしよう」
「うえ。面倒くさ」
「朔夜っち!同じチームになろう!」
「え〜。どうしよっかな〜。
ってか、テツヤー。生きてるー?」
「……ちょっと、無理、です」
「だから無理すんなって言ったのに。結局私と最後にやるんだもん」
「だって、約束、しましたし…」
「妙に頑固なんだよ、もー。
あ、さつきー。テツヤにスポドリあげてくれるー?」
「うん、今行くー!」
「すみません…」
体育館でぶっ倒れているテツヤ。本当に体力無いんだよねぇ。
その上頑固者。約束を破るのも嫌い。
まったく、誰に似たんだか。
「そんじゃ、チーム決めよっか。
まず、私とテツヤは違うでしょ。そんで大輝はテツヤのとこに行って…。しょうがないから、涼太は私のとこね」
「嬉しいッスけど何でしょうがないんスか!?」
「だって私が大輝の相手すると疲れるもん。面倒だし。
だったら涼太がやった方がいいでしょ?勝負的にも燃えるし。暑苦しいのは嫌いだけどね」
「な、何か傷付くッス…」
「緑間はどうしよーか。うーん…。……よし、テツヤの方にしよう。紫原は私が貰う」
「俺は交代でどっちのチームにも入ろう。残りは別の一軍メンバーを入れてくれ」
「はいよー」
私・涼太・紫原&別一軍 VS テツヤ・大輝・緑間&別一軍。
と、交代で赤司投入。
まあ、こんなもんでしょ。
チームは決まった。
「よし、休憩は終わりだ!ゲームをやるから一年はタイマーと得点版を用意しろ!」
「「「はいっ」」」
赤司の指示で一年生が次々に動く。
よく働く良い子達だねぇ。ちょっと後輩が羨ましい。
「よーし。負けねえッスよ青峰っち!今日こそは抜いてやるっス!」
「テメェはまだ早ぇよ黄瀬!望むところだ!」
「五月蝿いのだよ二人共」
「ゲームめんど〜」
「ほら、頑張ったらまいう棒の新作味奢るからさ」
「じゃあやる〜」
「テツヤーやるよー」
「…今行きます」
「頑張れ皆ー!」
「桃井、スコアを付けてくれ」
さーて、んじゃま。
肩慣らしと行きますか。