接触 2
「……もしもし」
『遅かったな。何か用事でもあったか?』
「食事中だった。クラスメイトと、その部活の先輩と後輩で」
『そうか。それは失礼したな』
絶対にそんなこと思ってないだろ…!
聞こえてきた懐かしい声は、相変わらずと言うか何と言うか。
「それで、電話なんかしてきてどうしたの?…………赤司」
絶対なる勝者。唯我独尊。自分に逆らう奴は親でも殺し、「全てに勝つ僕は、全て正しい」とかぬかしやがる俺様野郎。
帝光中男子バスケ部キャプテン、赤司征十郎からだった。
『今度の休み、こっちに帰って来るんだろう?』
「…何で知ってるの」
『テツヤに教えてもらった』
しまった。赤司にだけは言うなって忠告をするの忘れてた。
『それで、日曜に試合するんだが…誰かそっちの友達で見に来る人はいるか?』
「私、こっちで友達なんていないんだけど」
『さっき言っていたクラスメイトやその部活仲間は?』
「う。それは……まだ、友達ってワケじゃ…」
痛いとこを突くなぁ。
こういう眼力とか強いよねぇ。
絶対ストーカーでもしてるんじゃないかって時あるし。
『なら友達を作る為にも、是非日曜日、試合を見てもらったらどうだ?』
「私は友達なんか、いらない」
『そう言うな。テツヤが心配していたぞ』
あー。心配性だからな、アイツ。
ていうか過保護なんだよ。
「ねぇ。私バスケ部は退部した上に女子は潰れたよね?しかも転校してんのに、出れるの?」
『それなら気にするな。お前は確かに転校したが、部活在籍書は現在でも使われている。
朔夜は退部届を出したが、俺は受理していないからな。男子バスケ部で引き取った』
「…さいですか」
なんて手際が良いんだろう、この人。自分の利益になるなら手段は選ばないな。
しかしこのままでは埒が明かないし面倒だから、元から言う予定だった言葉を言った。
「……分かった。聞いてみる。分かったら、連絡するから」
『ああ』
ピッ、と通話を終了させた。
振り返って、彼等の輪の中に戻る。
「あ。終わった?」
「はい。あの、それでちょっと聞きたんですけど…。
皆さんは日曜日、時間はありますか?」
「んにゃ?日曜?」
「土曜日は練習試合だが、日曜日は休みだ」
「そうですか。私、週末に実家に帰るんですが、元居た学校の部活で日曜に練習試合があるんです。
もしよろしければ、皆さんで見に来ませんか?」
私的にはあまり来てほしくない。
あそこでの私は浮いてるから。
「バスケ部だったんだよね?」
「ええ。でも女子は人数が少なくて潰れましたけど。
私のは男子バスケ部の部長が在籍を引き取ったらしくて。男子の試合に出るんです」
「そういえばさっきも言ってたね。どうして男子と一緒に試合が出来るんだい?」
「ああ。それはですね…」
一昨年ぐらいの頃。女子がスポーツ界で力を付け始めていた。
女子界だけではその力を持て余し、どうしようと唸ったスポーツ協会は、ある一つの提案を出した。
――“女子対決で力を余してしまうなら、いっそのこと男子と一緒に戦ったらどうだろう?”――
強い女子選手には許可証を発行し、受け取った人は女子は勿論、男子とも試合をしていい。
そんな決まりを作ったのだ。
「けど実際、問題はあるんですよ。いくら強いと言っても男子と女子じゃ体格的に違いすぎるし、ゲームの内容も高度で、そしてやっぱり実力差はあるわけで。
そんなに長続きする女性はいないです。皆耐えられなくなって、元の世界に戻って行きます」
「そうなんスか。じゃあ、朔夜先輩は?」
「私は今、日本中学女子バスケ界で唯一男子と現在進行型で試合が出来るの。
ちょっと前はもう少しいたんだけどね〜。次々いなくなっちゃった」
寮で貰ったサンドウィッチを食べながら、越前の質問に答える。
もぐもぐと食べていると、周りからいきなり大声が上がった。
「「「すげぇ!!」」」
「へ?」
「だって男子と試合出来るんでしょ?」
「そんなこと隠してちゃいけねーな。いけねーよ」
「何で早く言わないんだにゃ!」
「え、だって、聞かれないから…」
まさかそんなに驚かれると思わなかったんですケド……。
「じゃあ、どうしますか?」
「「「行く!!」」」
「そうだね。お邪魔しようか」
「違うスポーツを見るのも、偶にはいいかもね」
「黒子のデータが取れるな」
「いいか?黒子」
そんな楽しそうな顔されたら、「駄目です」、なんて言えるワケなくて。
しかたないので、私は。
「はい。お待ちしてますね」
にっこりと笑顔で、返事をするんだ。
休みの日の約束