接触
「よう!黒子!」
「…おはよう。桃城」
教室に着くなり元気に声を掛けて来たのは桃城だ。
何か用だろうか。
「今日、昼空いてるか?」
「別にこれと言って用事は無いよ」
どうせまた一人でご飯を食べて、図書室に行って本を読む。
この学校で私にむやみに話しかける、“友達”という存在はいないから。
「じゃあ、一緒に屋上で食べね?」
「どうして?」
「先輩達が会ってみたいんだって。ほら、昨日注意してきた茶髪の先輩、いただろ?」
「ああ。不二先輩、だっけ」
「そうそう。不二先輩が、他の部員にも話してさ。面白い子がいるって。
そんで、俺、同じクラスだろ?昼飯誘って来いって言われてさ」
「成程…。お言葉は、嬉しいけど…」
「あ、もちろん、黒子が良ければ、だぜ。
あと、一緒に食うのは同じ一軍レギュラーだけだから」
そうは言われても、困るのだが。
実を言うと、私は人付き合いがとことん悪い。
目付き悪いし、愛想は振れないし、笑顔もまともに表せない。
面倒臭がりで、結構変わり者な性格してるから、人前に立つのが嫌い。目立ちたくもない。
只でさえ、何故か男子テニス部は美形が多く、ファンクラブが存在する程だ。イコール、モテる。
そんなキラキラした人達といると、こっちが何を言われるか分かったモンじゃない。
実際、帝光の時言われたし。
「…もしかして、周りの目、気にしてんのか?」
「え?いや、まあ。そりゃあねぇ」
だって面倒なの嫌いだし。
「平気だって!じゃあ、俺が先に行くから、後から来いよ。そうすりゃバレないだろ?」
「う、まぁ、それなら…」
「決まりだな!」
ニカッと笑って「楽しみだなー」と言っている桃城を横目に、そういえば、と思った。
久々だなぁ。誰かと、一緒にご飯を食べるのは。
一時間目の国語の用意をしながら、ちょっと楽しみになった。
*****
――昼。
寮から出されたお弁当を持って、屋上へ向かう。
階段を上がって、扉を開けると…。
見えたのは、広く青い空だった。
「お。黒子!」
「ごめん、遅くなった」
「俺等もさっき集まったばっかりだから平気だぜ!」
わぁ。見事に知らない人ばかり。
生徒会長と、不二先輩と、桃城と、同学年の海堂と、越前ぐらいしか分からない。
生徒会長は名前知らないし。
「君が不二の言ってた面白い子かにゃ?」
「恐らく。えっと、黒子朔夜といいます。こんにちは」
「オレ、菊丸英二!よろしくにゃ」
猫みたいな人だ。菊丸先輩。
「大石だ。副部長だよ」
「河村隆だよ」
「部長の手塚だ。桃城がお世話になっている」
「いえいえ、元気な人ですよ」
「部長!親みたいなこと言わないで下さい!!」
…あれ?後一つ、隠れてる気配がある。
私は扉の影に向かって声を掛けた。
「貴方は誰さんですか?隠れてる方」
「……バレたか」
「気配は隠れてましたが、生憎、私にそれは効きません」
テツヤが異常な程に影が薄くて、見つけるのが私でも苦労したから。
慣れてる今はそうでもないけど。
だから気配を見つけるのは結構得意だったりする。
「乾貞治だ。青学のデータマンをしている」
「はぁ。どうも」
データマンか。危ない人種だ。
一つ間違えれば、ただのストーカーになるよ?
「海堂と越前は知ってるか?」
「海堂は話したことないですが、一応同学年ですし。越前とは昨日図書室で会いました」
「そうか」
「それにしても、朔夜ちゃんってテニス上手いのかにゃ?」
菊丸先輩から出た素朴な疑問。
だけど、何度も言うように…。
「分かりません。けど、テニスは授業でしかやったことありませんよ」
「何か部活入ってた?」
「…前の学校で、バスケをやっていました。女子バスケ部」
正直、めちゃくちゃ弱かったですけど。
そんなことを思っているとは知らない先輩等が、「へー!」と驚きの声を上げた。
「運動部だったんスか?」
「一応ね。男子と混ざりながらやってたよ」
「男子と?」
「知りませんか?最近導入されたスポーツ協会の…」
♪♪♪♪♪
話を遮るようにして鳴るメロディー。
それは私の物だった。
「ちょっと失礼します」
「ああ。構わない」
移動して、扉の裏に移動する。
ケータイの画面を見て、「げ、」と声を漏らした。
マジかよ。あーあ面倒だ。
正直出たくないが、出なかったら後が怖い。と言うか恐ろしい。
溜め息を一つ吐いて、通話ボタンを押した。