羨ましい

放課後。私はいつも行く場所がある。



「すいませーん。返却手続お願いしまーす」



それが、この図書室だ。

前から本は好きで、片割れの弟と休みの日によく本を読み漁りに本屋や図書館に行くことがあった。

青学も流石は私立と言ったところで、結構図書室が広い。

しばらく目標はここの本を全て読破することだな。



「……あ、朝の…」

「あれ。桃城の後輩君。図書委員なの?」

「そうッス」



背が小さめで小柄な後輩君がカウンターに座っていた。

でもなんだか嫌そうに。



「なんでそんなにむくれてるの?」

「早く部活行きたいんスよ。練習したくて」

「へえ。熱心だねぇ。あんまりそういう気持ちは分からないけど」

「えっと、先輩は…」

「? ああ、名前を言ってなかったね。
黒子朔夜だよ。出来れば名前で呼んでね」

「越前ッス。越前リョーマ」

「リョーマ…ハーフ?」

「いえ。アメリカ出身ではあるッス」

「ふーん。もしかして帰国子女?」

「はい」

「いいなぁ。英語ペラペラじゃん」



私は少し英語が苦手だからなぁ。

イタリア語とかドイツ語とかだったらまだ話したり読めるんだけど。

今度英語の本でも読んでみるか。



「先輩は、部活…」

「入ってないよ。帰宅部兼勝手に文化部作っちゃおうか検討中」

「何かやってみたりはしないんすか?」

「…今はいい、かな」



バスケが好き。部屋で本ばかり読んで引き篭ってた私に、初めて外を教えてくれたのがバスケだった。

小学3年の頃にボールを買ってもらって、公園のコートでテツヤと一緒に遊んだ。

テツヤは元々体付きが細くて、筋肉が付きにくい身体だけど、私は鍛えれば少しくらいはついたし。

ライバルもいない。敵もいない。つまらない。面倒臭い。

でもやっぱり、好きな物は、嫌いにはなれなかった。



「ならこれから、一緒に行かないッスか?」

「何処に?」

「テニス部のコート。丁度今日の当番はこれで終わりだし、朔夜先輩がよければ」

「…………」



テニス、かぁ。

そういえば最近、全然体動かしてないなぁ。



「…行く」

「じゃあ早く行きましょう。Let's go!」

「発音良いね。越前」



流石は帰国子女。

関心している間に、私の腕は越前に引っ張られて、図書室を後にした。


*****


パコン!と音がする。

ワーワーという掛け声と、キャーキャーという黄色い声援。

ああ。外だなぁ。



「部長。委員会で遅れたッス」

「早く準備体操とアップをしてコートに入れ。
…ん?あの生徒は?」

「見学ッス」

「コートには入らせるなよ」

「はーい。
朔夜先輩、入んないで下さいねー」

「あ、うん。分かった」



あの老け顔さん、生徒会長だよね。

会長と部長を兼任って、忙しくない?

他の学校にもいるんだなぁ。赤司と同じ立場の人。



「ん?黒子?」

「桃城。何?休憩?」

「おう。どうしたんだ?」

「越前に誘われたから来た。図書室で会ってさ」

「へー。マネージャーでも希望すんのか?」

「まさか。テニスなんてルール知らないし。マネなんていうガラじゃない」



マネージャーと言えば、テツヤ大好きの美人さんを思い出した。

すごい観察力の持ち主は、片割れのさりげない優しさが好きだとか言ってたな。

彼女くらいの特技があったら役に立てそうだけど、私には無いからねぇ。



「あー。体動かしたいなぁ」

「運動部入ればいいのに。運動神経いいだろ?」

「まあ、人並みには」



一応運動系最強中学に居ましたし。

女バスは弱かったけど。



「なんなら打つか?今休憩中だし。ネットに向かって打つぐらいならいいぜ」

「え、いいの?先輩に怒られない?」

「へーきだって。ほらよ。ラケット」



ポイ、と渡されたのは、さっきまでも桃城が持っていたラケット。

大事な道具をそんな簡単に渡していいのだろうか。



「じゃあ、お言葉に甘えて、裏で一球…」

「ここならあんま人来ねぇし。部長にも見つかんねぇだろ」



少し裏に移動して、ネットに向かい合う。

ボール、変なところに行かないことを願って…。



「行きまーす…」



ラケットを、振りかぶった。


バシンッ!!



「おおー」

「…へ?」



感心したのは私。間抜けな声を上げたのは桃城だ。

ネットの穴にキュルキュルと回転しながらあるボールは、回転が収まるとポトリと地面に落ちた。



「今、すげえ音しただろ…」

「うん。え、君達もあれくらいの力で打ってるじゃん」

「そりゃあ練習すればな。けど、今だけでそれって…。
前の学校でやってた部活、テニス部だったのか?」

「ううん。さっきも言ったでしょ。テニスはしたことないって」



そう言うと桃城は「ありえねー」とか「すげえ」とかを繰り返し、最終的には「もう一回!」なんて言った来た。



「しょうがないなぁ…。一球だけね」

「おう!」

「じゃあ、もう一回…行きまーす…」

「桃。そこまでだよ」



打とうとしたら、知らない声が聞こえた。

桃城は「げっ」という声を漏らしていたけど。

綺麗な茶髪。サラサラヘアーの美男子。

誰だろ、この人。



「部外者にラケット持たせて部活のボールを使わせるなんて。手塚に言っちゃおうかな?」

「うわあああ!止めて下さいよ!不二先輩!!ちょっとした出来心だったんスよ!!」

「すみません。私が無理を言ったんです。彼のことは秘密にしてあげてくれませんか?」

「…君、名前は?」

「黒子朔夜です。桃城とはクラスメイトで、一年の越前に誘われて部活見学してました」

「…ふうん。面白い子だね。僕は不二周助。三年だよ。
それにしても、すごい球を打つね。気に入ったよ」

「……それは、どうも」



危険だ。この人。

魔王気質の、黒属性だ。

嫌だなぁ、もう。



「今度、またおいでよ。その時は歓迎するから。テニス部員も紹介するよ」

「ありがとう御座います」

「でも今日はもういいかな?これから試合するんだ。
それにあんまり部活中に一般者と一緒にいると部長が怖くてね」

「分かりました。私も今日はこの後用事が出来たので、失礼します。
桃城、ラケットありがとう」

「あ、おう」

「では、さようなら」



お辞儀をして、そそくさと離れよう。

寮に戻って、ボール持って、どこか公園に行こう。

バスケがしたくて、たまらないから。

楽しそうに好きなことをやってる彼等が羨ましい…なんて。

絶対、思わないんだから。





なんとなく走りたい

mae ato
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