現状報告

「…あ、しまった」



朝。教室で家に忘れ物をしたのに気付いた。

数学で用意しろと言われていたコンパス…。今日使わないといいなぁ。



「オーッス!はよーー!!」



突然教室に飛び込んできたのは、背の高い男子。

このクラスの有名人で人気者でムードメーカー。

ファンクラブまであるらしいこの人。



「よっ!黒子、おはよ!」

「…おはよう。桃城」



彼、桃城武。クラスメイト且つ席のお隣さん。

テニス部でレギュラーであることから、絶大な人気を誇っている。



「あ!三角定規忘れた!!」

「桃城は三角定規?私、コンパス忘れた」

「コンパスなら持ってるぞ。丁度いいから貸し合おうぜ」

「ナイスアイデア。そうしよう」



こうやって誰にでも優しいと、いつか背中刺されちゃいそうだ。彼は。

不意に、扉の方に目をやると、小さな影が見えた。

恐らく、一年生。



「桃先輩、借りてた本返しに来たッスよー」



“桃”……桃城のことだろうか。

気づいてない彼の代わりに、私は一年生に近づいた。



「君、桃城の後輩?」

「あ、そうッス」

「今呼んでくるから、ちょっと待ってて」



席に戻って「桃城、」と声を掛けた。



「ん?何だ?」

「後輩君が呼んでる」

「あ、ワリィ。サンキュー」



「越前!」と後輩君に向かって声を出した。

あの子、越前と言うらしい。

というか、うん。小さい。



「桃先輩、遅い」

「わりーわりー。今オレも来たばっかでさ」

「…この人、桃先輩の彼女ッスか?」

「違うよ、後輩君。只のクラスメイト。席お隣。そんだけ」

「そうッスか。あ、さっきありがとう御座いました」

「どう致しまして。
じゃあ私寝るから。桃城、授業一分前に起こして」

「おう。おやすみー」



私は授業より、食欲より睡眠だ。

寝た方がラク。だって寝てれば世界は見えないから。

遮断して、壁を作って、殻に閉じ篭る。

そうやって存在意義を守るんだ。


では、おやすみなさい。





あまり変わらない日常

mae ato
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