ゆっくり瞼を開くと、まず眩しさが目を刺激した。唐突の眩しさにしばらく開いた瞼を閉じていたが、徐々に目が慣れる。ぼんやりとしていた視界が開けてくる。そこでやっと、あの刺激は朝日の眩しさだったのだと気づいた。視界が開けてくると、次に目の前に真っ白なシーツが広がっているのが見えた。昨日新しく卸したシーツは少し柔らかくていい匂いがする。その匂いを目を閉じて肺に招き入れると、視界が開けたことで少し覚醒した頭はまた靄がかかったようにふわふわと眠気を誘った。肩までかかった布団も自分の体温で調度いい温度になって、更に瞼が重くなる。
布団の中で少しうずくまり、もう少しだけこの気持ちいい眠気に身を預けようとして、朝日に背を向けるように寝返りをうった。


「……………」

寝返りをうった先には5つ上の兄の顔があった。
「っ!?」
柔兄、と叫びそうになったところを寸前で無理矢理止めて口を両手で覆う。うっかり叫ばなかった自分を盛大に褒めたい。起こしてしまうかと思ったが、柔兄は起きることなく静かに寝息を立てていた。起こさずに済んでホッとした。せっかく寝ているのに起こしてしまっては申し訳ない。今でこそ他人の安眠を考えるが、昔はそんな事など一切考えずに寝ているのも構わないで腹に乗っかり大声で兄や父を起こしたものだ。その度に怒られたのはもはや言うまでもない。
ホッとした安心感からか、再びぼーっとしてきた頭で、ふと考えた。そういえば、柔兄の寝顔をこうやって見るのは初めてかもしれない。
柔兄はいつも自分が起きる頃には起きているし、寝るのも仕事だなんだといつも遅いのだ。だからとても珍しいものを見ている気分になって、まじまじと見つめる。起きている時は勿論だが、その整った顔は寝顔でも変わらず魅力を発揮している。自分の兄ながら、見とれずにはいられない。かっこいいなと思う。そんなかっこいい人に自分は抱かれたのだ。
そこまで考えて、唐突に恥ずかしくなり顔が赤くなった。あまりの恥ずかしさにシーツに顔を押し付けようとしたところで漸く気が付いた。自分の頭の下に柔兄の腕があって、所謂腕枕をしてもらっていたことに。それでまた顔が熱くなって、恥ずかしさにいよいよ耐えられず、ガバッと起き上がって、こちらを向きながら寝ている柔兄に背を見せるような形で三角座りをする。布団から出たことで肌寒さを感じたが今はどうでもいい。そういえば、昨日の記憶は途中からあやふやである。後処理もされて、服も下着も着ている。柔兄がしっかりやってくれたのだろう。

「愛されてんなぁ…」

小さく呟いた一言は広い部屋にやたらと響いたように感じた。女の子のような台詞にまた恥ずかしさは募ったものの、響いた声に少しだけ虚しさを感じて、立てた膝の間に顔をぐりぐりと埋める。

「愛されてるやんなぁ…」

再びぼそっと呟いた瞬間、腰に何かが纏わり付いた。

「わぎゃっ!?」
「…お前、今日は早いんやな」
「じゅっ、柔兄…!」

腰に纏わり付いたのは柔兄の腕だった。いきなりのことに少し血の気が引いた。寝ながら腰に抱き着く柔兄の声は少し眠そうだった。

「え、聞いてた?」
「何をや」
「いや、聞いてへんかったらええねん」
「教えろ」
「え、嫌」
「なんでやねん」
「嫌ですぅ」

はぁ?と不機嫌そうな柔兄の腕をはらって、振り向くと腕をはらわれたことに驚いた柔兄が目をぱちくりしていた。

「柔兄」
「…なんやねん」
「俺のこと、す、すき…?」
「……」
「えっなんで黙るん」

もしかして、俺達は身体だけの関係なのか?柔兄は俺をただの性欲処理用としか見ていないのか?なんてバカみたいな考えが頭をぐるぐる回る。それに感づいた柔兄が頭をがしがしとかきながら少し頬を赤らめ、言ってくれた。

「アホかお前」
「えっ」
「愛しとるわ、バカたれ」

人って単純なものだ。少しの不安に駆られても、愛しい人の言葉一つで世界一幸せになれたような気がするのだから。だからこうして柔兄に飛び付いて好きという言葉を何回も言うのだ。新しいシーツも布団も整えてもらった服も、ぐちゃぐちゃになりながら柔兄に擦り寄る自分はさぞかしみっともないだろう。でもそんなことは気にならない。だって柔兄が笑って頭を撫でてくれているから。だから俺は世界一幸せだ。今は世界一幸せな朝だ。そう思ってまだ言ってない言葉を言う。


「柔兄、おはよ」
「おはようさん、金造」


そうして世界一幸せなキスをした。






 おはようの声が聞こえる







初:20111111
編:20120709
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