それは夏の、とある放課後の話。




  Sunshine Days
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放課後、夕方とはいえどもまだ昼間の暑さが残っていて、外に居れば立っているだけですぐに汗をかく。ただ、吹き付ける風だけは爽やかさに満ち溢れていて、暑い放課後を少し涼しくしてくれていた。例えば、室内だと窓を開けるだけで冷房要らずとまではいかないがそれなりに快適だ。なのに何故か僕と青峰くんは屋上に居た。屋上もそこそこ涼しいけれど、まだ日は高く、太陽の光がコンクリートに落ちて目に滲みる。なんでこんな所に来たんですかと尋ねたら、青峰くんはただ一言、人が居ないからとだけ言った。出来ればもう少し説明が欲しいところではあるがこういう時は何も言わないのが吉なのだ、というのが最近になってようやく分かった。
でも、今日は絶対聞かなければならないことが一つあった。






俺達があの時居なかった理由?そんな大層な、理由なんてものはないな。敢えて言ってみるなら、そう、思いつきってやつだ。ノリとも言えるかもしれない。俺達のような…なんて言ったっけ。タンケン?ダンカン?えーっと…なんだったっけ…ああ、そうだ思い出した。タカンだ、多感。……なんだよ、ちょっとド忘れしちまっただけじゃねーか。そんな心配そうな顔で見んじゃねーよ。バカにしてんのか。お前だってちょっとしたこと忘れたりとかあるだろ?簡単な単語忘れたりすんだろ。俺もそれだからな。俺がバカとかそういうんじゃないからな。…だからそんな顔で見るなっつってんだろ。と、単語なんていつ勉強したんですかって台詞もやめろ。俺、過去に似たようなのもう数十回と聞いてんだけど。ていうかそれでいくと多感ってほうに突っ込むのが流れじゃね?いいじゃないですか、じゃねーよ…ったくよ…話ずれまくってしょうがねぇ。あ?一応言うけどお前のせいだかんな?
まぁいいや、だからその、あれだよ。俺達ってその多感なお年頃だろ?そういうさー、意味ありげで結局意味のない行動がお決まりみたいなもんだろ?厨二っつーの?俺ら中三だけど。まぁそういうことだよ。あ?意味がわからないって…お前なぁ…理解する努力が足りねーんだよ努力が!いっつもバスケにかけてる努力何処いったんだよ!……それはそれ、バスケはバスケ、ね…はぁ…俺にはお前のことのほうが意味不明だわ。
ああ、また脱線しちまってる。話戻すぜ。
でな?その多感なお年頃の俺達が思いつきで学校もバスケも放り出して何処に行ったと思う?……疑問を疑問で返すなって、お前なんか俺に質問したか?まぁいいや。とにかく何でもいいから言ってみろよ。


……お前、やっぱすげぇな。あたり。








「青峰っち〜」
「あー?」
「どこ行くんスか〜」
「んー」
「んー、じゃないっスよ〜」

彼はうっせーなと言ったきり、揺れるバスの窓枠に頭を預けて眠ってしまった。乗っているバスには俺達以外に数人しか乗っておらず、とても静かだ。
このバスには朝、夕方と学生が多く乗り込む。自分もそのうちの一人で、学校の近くにバス停があるだけに、通学用に利用する学生ですし詰めになる。しかも、お喋りが趣味に入る年頃ばかりが利用するために、朝と夕方の騒がしさと言ったら。その騒がしさが嫌いな俺はいつもイヤホンを耳に付けて音楽に意識を集中させる。いつもがそんなものだから、今日は何処か別の場所、別のバスに乗っているように感じた。何故なら今の時間はというと、学校という学校であれば丁度午後からの授業を開始している時間だからだ。学生どころか一般の利用者も少ないのはそのためである。違和感は感じるが不思議と不快感はなく、授業をサボっているという罪悪感もない。寧ろワクワクしているのかもしれない。日常から離れることの楽しさに触れかかっていた俺は、いつも聞いているノリのいい音楽ではなく、バス独特のエンジン音と道路の凸凹に比例したガタンガタンという音だけを聞いていた。その音が乗客を日常から遠ざけている。窓の外にはいつもの日常が走り抜けているというのに。定期的に流れる車内アナウンスは現実に降り立つ為の大事な案内人。人工的なものなのにどこか人を感じさせない乗り物だな、とらしくないことを考えているのは、それしかやる事がなかったからだ。
だって彼が喋ってくれない限り、俺はとてつもなく暇だから。それに開いている窓から吹く風にあたりながら気持ち良さそうに眠っているのを邪魔したらきっと怒るだろうし、かと言って黙っているなんて俺の性に合わない。しかし一人で喋っていたら確実にアウトだ。色々と。
さて、どうしたものかと考えて、そうして行き着いたのはちょっと痛い物思いに耽るしかなくて、何だか心が重たくなってしまった。いたた。

「…らしくないことなんて、するもんじゃないなぁ」

なんて呟いて前をじっと見つめた。俺達は1番後ろの座席に陣取っていて、何度も言うようだが三人分程のスペースを二人で使っているのにも関わらずそれにお咎めが来ない程人はいない。夏の陽射しに焼けて蜃気楼を映す道路をバスは風を切ってタイヤを転がす。きっと外は蒸し暑くて汗が止まらないのだろう。もし、タイヤが焼き切れてバスは止まってしまわないだろうか。止まってしまったらどうしようか。…いや止まってしまったところで俺達の行き先なんて彼しか知らないから俺自身はどうしようもない。彼に任せるしか、そこまで考えて俺はどれだけ彼中心にる廻っているのだろう、と鳩尾あたりがきゅっと痛んだ。
ところで、

「…寝過ごしてる、とかないっスよね?」











「大輝と涼太は?」
「今日はお休みだそうです。なんでも課題があるとかで」
「…ふぅん」
その日の部活に青峰君と黄瀬君は来なかった。無断休部、と言ってしまえばそれまでになるのだが、そんな事を言った日にはこっちにまで責任という名のとばっちりが来るのは目に見えている。だからわざわざ頼まれもしなかった嘘をついた。すぐばれるかもしれない、いや、もうばれているかもしれない。こんな嘘は瞬時に見抜いてしまう帝光のキャプテンは、それはそれは恐ろしい人なのだ。背いたら練習メニューが何倍にも膨れ上がる。それを知りつつこうやって堂々とサボタージュするあの二人は最早ヒーロー的立ち位置とも言えるし、逆に大罪を犯した犯罪者とも言える。今の僕にとっては後者にしか思えないのだが、とりあえずそれは後だ。今、最も重要な事は何とかして恐ろしいキャプテンを言いくるめなければならない事だ。

「まぁ、課題なら仕方ないか」
「…いいんですか?」
「課題なんだろ?」
「そう聞きました」
「学生だからね。学業優先するのは当然。これで課題溜まりすぎて部活に出れません、っていうほうが馬鹿げてる」
「そうですね。じゃあ二人には何と」
「明日はメニュー2倍でいいよって伝えて」
「容赦ないですね、赤司君」
「まさか」

そう言って彼は滅多に見れない優しい顔で笑ってみせた後に光っていうのは今しか輝かないから美しいものだよ、と言った。










何時間座っていただろうか。全身の筋肉が慣れていない振動に悲鳴をあげていた。降りた瞬間思わず大きい溜息が出た。
バスを一度乗り継ぎ目的地に着いたのは丁度部活が始まる時間で、ああサボっちゃったなぁとぼんやり思った。キャプテン怒ってるかなぁとか明日のメニュー3倍になってたらどうしようとか皆に何処行ってた?って聞かれたら何て答えようかとか色々と考えてみたけれど、そんな後の事などどうだっていい。今は目に入る景色をただ眺めていたかった。

「ここ…」
「俺の秘密基地みたいなもんだ」
「ブフッ…秘密基地って…小学生かよ…」
「おい笑うな。これよりいいもんあるけど見せてやんねーからな」
「えっ…やだ!見たい!」
「じゃあ笑うな」
「もう笑ってないっス!」

今日はまた一段と日差しが強く、蒸し暑い。タオルを持って来てよかった。
ここに来る直前、鞄を持って行こうと肩にかけたら鞄はいらないから置いていけと言われた。邪魔になるからと。そして学校には元々戻るつもりだと。聞きたいことはいくつかあったのだが早くしろと急かされたので鞄の中から携帯や財布、あとは彼が首にかけていたタオルを見て自分もタオルを引っつかんで来た。あの時引っつかんで来て正解だったなと自画自賛したいところだが、タオル一枚では日差しから頭を守ることしか出来ず、ただただ汗は流れ落ちていくだけだった。

俺達はとある向日葵畑にいて、人が一人通れる程の狭い畦道を歩いていた。


「青峰っちぃ…」
「…んだよ」
「…あっちーっス…」
「…うっせーな…夏なんだからしょーがねーだろ」
「ていうかいつまで歩くんスかぁ」
「お前は文句ばっかだな」
「だって青峰っち何も言ってくれないんスもん…」

さりげなく本題を聞きだそうとしたが、彼は前を向いたままそれきり黙ってしまって、自分より長い足でスタスタと歩く。歩いたのはほんの10分程だったが1時間にも感じられる10分だった。
着いたぞと言われて彼の後ろから前を見ようと顔を覗かせると、そこは向日葵畑を少し切り開いて作った、庭のような開けた場所だった。中央には少し古めかしい小さい東屋が建っていて、ちょっとした庭のようになっていた。そんな滅多に見ないであろう光景に俺は高揚した。それにバスケにしか能がない(なんて言ったら殺され兼ねない)彼がこんな、まるで女の子が好きそうな場所を秘密基地にしているなんて意外だった。とても意外だった。しかも向日葵なんて夏の、しかも限られた期間だけのものだ。期間限定の秘密基地なのだろうか。

「なにこれ…」
「言ったろ。秘密基地」
「いや、あの、そうじゃなくて、えっと」

どうにも今の自分の率直な考えが出て来ず、しどろもどろしていると彼はなんとか察してくれたようで俺を東屋に案内した後、色々な事を聞かせてくれた。
ここは中学に入学した年の夏にたまたま見つけた事。畑なだけあり、ちゃんと地主さんがいるのだがその地主さんに特別に秘密基地にさせてもらえている事。その理由は地主さんと彼だけの秘密な事。ここは一年中彼の秘密基地というわけではなく、夏の間だけという約束だという事。地主さんは今日はいないという事。
たまたまこんな所まで来れるのだろうか、地主さんは一体どんな人なのか、など、また聞きたい事がたくさん出来たがやはりここは聞かないでおくべきだろうと考えた。多感なお年頃にはよくある話だということにしておこう。
一先ず感想としては

「いいっすね、ここ」
「だろ?ちょっと遠いけど」
「はいっス!」



「……あの、ところで肝心なことがわかってないんスけど…」
「あ?なんだよ」
「ど、して…そんな秘密の場所に俺を連れて来てくれたんスか…?」

さっきまで優しげに笑っていた彼は急に真顔になって視線を東屋の向こう側でキラキラ光る花に向けた。いつもなら俺が疑問を投げかけたら即答してくれる(大体が罵倒)のだが今日、今に限ってやけに間が開く。そんな答えにくい質問だったろうか。しかしそれを聞かないことには帰れない気がした。

「テツがさぁ」
「はい…って、え、黒子っち?え?なんで、」
「お前のこと、太陽みたいだって言ったんだ」
「…はい?」
「いつもキラキラ笑って、ちょっとうっとうしいけど、それで皆が笑ったりできて、すごいですよねってさ」
「は、はい、え、あの」

「…お前さ、眩しいよ」
「…え?」

彼はまたそれきり黙ってまた向日葵を見つめた。全く答えになっていなかった。ただ俺が俺の知らない所でチームメイトに褒められていたという話をしただけだ。ここに連れて来られた理由になっていない。
しかし、何となくではあるが言わんとしていることはわかる、かもしれない。彼は光だ。光である彼の影の存在に「俺」が光の象徴とも言える太陽のようだと言われたのだ。影、黒子っちはきっと他意はないのだ。しかしそれにしても複雑窮まりないはずだ。
だって、「俺」が光なら「彼」は何だというのだろうか。








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