妖館ウォークラリー



「あ、あだ名たん昨夜ぶりー♪」

ラウンジに足を踏み入れると残夏と野ばらという珍しい組み合わせだった


「2人でこんな時間なんて珍しいね、なんかあったの?」

残夏は人差し指を立てて私に向けた


「キミの事だよ」


「名前ちゃん、前よりも頻繁に外出するようになったでしょ。去年みたいな事が起こったらどうするの?」


去年…

私はいつものように夜、外に行って大怪我を負った



左靭帯の損傷

あばら骨の骨折

右目は失明しかけて

頭蓋骨にはヒビが入った




「もうあんな事は起こさないよ、怪我も完治したし…」



「嘘つき。」

残夏がうっすらと目を開いて言う


「その左足は使い物にならない、いくら化かすのが上手くてもみんな気づいてるよ。」

野ばらが溜め息をついた


「名前ちゃん、そろそろSSを雇う事考えてみたら?」


「そんなもの、必要ない。」

「でも、」

「本当に…大丈夫だから。みんなには迷惑かけないし、気にしないで。」







「アンタが言えば聞いてくれると思ったんどけどね。」

「えー?なんでボク?」

わざとらしく言えば彼女の眉間に皺が寄る


「名前ちゃんと仲良いじゃない。まるで恋人みたいだわ。」


野ばらちゃんはそれだけいうとラウンジを出ていった




「恋人、か。」


今でもそんな風に見えるなんて意外だったな


今までの記憶を持っている先祖がえりは多くない



だからボクと“名前”が親しくなるのに時間はかからなかったし



ずっと昔の事だ








ボクと彼女は…









「「サインしてくれ!」」


私は現在サインを迫られています。

『明日の朝、ラウンジに来てくれる?話があるんだ。』

ウサ耳男が珍しく真面目に言うもんだから眠いのを我慢してきてみたら


凜々蝶はスカートを持ち上げてるし卍里はモノマネをしてるし



呼び出した本人は爆笑してるし…




「名前頼む、コイツらに勝つために必要なんだ。」

必死に頼む卍里


「苗字さん、サインを頼む。」

若干上から目線の凜々蝶



「…はい。それからあなたは私の事名前で呼ぶまでサインしないから。」

卍里にサインをすると凜々蝶に言った

「な、名前で?」


「そう、苗字で呼ばれるの嫌いなんだ。」

ニコッと御狐神がやるような天然黒をやれば


「…名前、サインしてくれないか?」

目を逸らして言う凜々蝶

「サインしてあげるけど条件があるわ。」

「条件?」


双熾をちらっと見る


「今度、私と手合わせしてくれない?」


「手合わせ?」

「嫌ならサインはしない。」


凜々蝶に選択肢はなかった

「わ、わかった。」


“苗字 名前”


「これで満足?じゃあまたね。」

凜々蝶から離れて双熾に近づく





「ちゃんと守るのよ。」

「もちろんそのつもりです。」

その返事に微笑むとラウンジを出た




春の風が心地良い










名前は庭の端の花壇の前にしゃがんでいた

「今年はこんなに沢山咲いたんだ。」

ここに私が存在した証


「ここにいたんだ名前。」

「渾名で呼ばないの?」

「2人の時くらい名前で呼んでもいいでしょ?」


残夏は隣にしゃがんだ



「今日だったね。」

「あれ?そうだったっけ?」

「…馬鹿。」


拗ねたような名前を見て残夏はふっと笑った


「「もう25年か…」」

重なった言葉



「言っておくけど、」

残夏の手が名前の頬に触れる




「忘れてなんかいないからね。」

「…うん。」

残夏は名残惜しそうに頬から手を離して花壇を見た



「いろんな色が咲いてるね。」


赤、ピンク、オレンジ、黄色、白…花壇の中はたくさんの色で溢れていた


「私達が植えたのは赤だったよね。」

「よく覚えてるね。」

「残夏の髪と私の瞳の色。今はいろんな色に埋もれてしまっているけど私は赤が一番好きよ。」

「ボクも、赤が一番好きかな。」

「…そろそろ戻るね。」


名前は立ち上がって言った



「今日に間に合うように戻ってきてくれたんだよね、ありがとう。」

名前は行ってしまった






風に揺れるチューリップの花

彼女とボクで植えた真っ赤なチューリップ





花言葉は”永遠の愛“



あの時限りのつもりだったのに

ボクは今でも君の事が…



「さっ、渡狸をからかいに行きますか。」



ウォークラリーはまだ続いてる




残夏は来た道を歩いていった


一度だけ、振り替えって。



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