いってらっしゃい | ナノ




彼女はいつだってピアノを弾いていた。父さんの計画が進んでいても彼女だけは見た目も中身も、名前も変わることなく、チームに入ることもなく一人ピアノを弾いていた。姉さんが出て行ったとき彼女は寂しそうな顔をして姉さんを見送った。出て行く時に姉さんが彼女を抱きしめているところを見た。彼女は震える声で小さく「行ってらっしゃい」と姉さんに言った。それからの彼女は相変らず一人でピアノを弾いていた。静かに静かに弾いていた。


練習が終わった後に彼女を見れば彼女はピアノを弾かずに椅子の背凭れに背を預け夕日が差し込む窓を見つめていた。彼女がゆっくりと俺の姿を捉えて微笑んだ。

「勝負するって聞いたよ」
「……」
「…がんばってね、」

無理矢理作ったその笑顔が痛かった。




俺たちが戦う為におひさま園を出る時、彼女は姉さんを見送る時のように俺たちのもとへ来て、微笑んで小さく「行ってらっしゃい」と言った。

彼女が静かに静かに泣いた事を俺たちは知らない。



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