両手に愛 | ナノ




おまえもクリスマスに補習なんて、可哀想なやつだなあ。


先生が本気で哀れむような目でそんな事を言うからむっとした。「先生もクリスマスにわたしの相手なんてしちゃって、すごくかわいそう」鼻で笑うと、うるせえ!と頭を叩かれる。そんなことするから、いつまで経ってもわたしが馬鹿なんだ。
わたしの成績があまりにもひどいから冬休み始めの5日間は補習ということになったが、まさか補習を受ける子がわたしだけとは。先生ってば本当にかわいそう。でも恋人居なさそう。
荷物をまとめて鞄を肩にかける。「それじゃあ先生、わたしは人を待たせているので」口元を緩めて言えば大きな舌打ちをされた。


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「おせぇ」
「ごめん、補習だった」
「知ってるっつの。で、どこ行くんだよ」
「んー、明王ん家行こ」
「別にいーけど…お前の家でもいいだろ」
「明王ん家のほうがここから近いじゃん。それにわたし寒い」
「…あっそ」
「うん」


手袋でごわごわした手で明王の手を握る。黒。黒黒黒。明王が身に付けるものは黒ばかり。似合っているし、服なんか個人の自由なんだから、とやかく言うつもりは無い。それにしても明王は白いなあと息を吐きながら思う。もしかしたら、わたしよりも白いんじゃないだろうか。「あっ」なんだよ、と声が降ってくる。


「や、ケーキ売ってるから…」
「…食いてぇの?」
「うん」


はあ、と明王は白い溜息を吐いた。それから二人でわたしの視線の先へ。
甘ったるい匂いもクリスマスという今日なら素敵な飾りになるもんだ。雲と雲の隙間から顔を覗かせる太陽が沈んで、月がゆったりと顔を出す頃には街は素敵な飾りで埋もれているだろう。
学生の身分で大きなケーキなんて、もちろん買える訳がないから小さなチョコレートケーキを選ぶ。明王は…食べないらしい。店員さんにケーキを頼んでお金を払おうと、財布を漁っていたら頭を小突かれた。「俺が払う」えええ。丁重にお断りしようとするがこういう場合の明王はなかなか引き下がらない。というかもうお会計を済まされている。ケーキ代も払われたし、ケーキを入れた箱も明王に掻っ攫われた。すごくにこにこしている店員さんを横目にお店を出るとケーキの箱を持っていない手を差し出された。よく分からない。ケーキ代だろうか。だったら最初からわたしが払うのに。先程お店でもしたようにお財布を漁っているとぐらりと頭が揺れた。


「ばっか。お前ほんとバカ」
「ひどい暴力反対、暴言も反対」
「手」
「え、手?」
「手!」


手を出したら握られた。え。あ、そういうこと。ただ手繋ぐだけか。すこし手に力を入れるとぎゅっと握り返される。ただ手を繋ぐだけ、それだけに心臓が高鳴った。


title/自慰
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