幸せの縁取りをなぞる | ナノ



※ネタバレ注意



夜の暗闇に彼の褐色はよく溶け込んで見えなくなる。それが怖くて腕を伸ばすとシュウに触れた。たぶん、これは頬。すうっと手を下ろし彼の手をさがした。冷たくしろい雪のなかにある微かな温もりを見付けてそれに指を絡めた。


「シュウはあったかいね」
「そうかな?」
「うん、シュウの方がわたしより人間みたい」


雪のなかに倒れると、ばふりと音がした。それから控えめに二回目のばふり。雪がどんどんわたしから熱を奪っていく。それに比べて指を絡めたままのシュウは温かい。すべての雪を溶かしてしまいそうだけど、たぶんそんなこと出来っこ無い。
白のなかのシュウはよく映える。「シュウ、きれい」彼は困ったように恥じらうように目を細めた。あとどれくらいだろう。あとどれくらいの時間がわたしたちには残されているんだろう。見えない未来がこわい。そう思うと同時に絡めた指に少しだけ力を入れた。


「ねえ、こっち向いて」
「…うん」
「ちゃんと見て」
「うん、」


僕はもう居なくなるからとか、泣かないでとか色々言っていた気がするけど、よく覚えていない。ぎゅうっと抱きしめておでこに唇を優しく押しあてられた。背中に腕をまわしたけれど涙は止まらない。シュウ。小さく呟いた。何度も何度も名前を呼んだ。その度に、うんうんとシュウは言葉を返してくれる。行かないで。もしそんなことを言ったらシュウは困ったような顔をして笑うんだろう。「会えるといいね」シュウは優しく微笑んだ。ああシュウが消えていく。炭酸が弾けるように、降り落ちる雪のように。


「だいすきだよ、ばいばい」


そんな優しい言葉よりも二回目の口付けよりも、わたしは溢れる涙を止めて欲しかった。涙を拭ってくれるだけでも良かった。温もりだけを置いていって欲しくなかった。彼の名前を呼びたいのに口からは嗚咽しか漏れない。止まることを知らない涙が雪を溶かした。


title/自慰

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