よくできました | ナノ




すごく苦しかった。仲の悪い両親に挟まれることも期待されることも、全てが苦しかった。まるで海の底のように真っ暗な場所をさ迷い歩くわたしの体には沢山の傷が出来たけど手の中はからっぽで。どんなに頑張っても得るものは無いんだと気付いたのはだいぶ昔。それでも頑張って歩いていれば何か得られるかもしれない、何か変わるかもしれない、そう信じて歩き続けたけど結局何も得られなかったし何も変わらなかった。こんな世界なんていっそのこと滅んでしまえと何度願ったか。

「あぶない!」

そう誰が叫んだあとに痛みが襲ってきた。このまま死んでしまえばどれだけ楽なんだろう。なんて考える脳みそはこんなときでも相変わらず。



ゆっくりと重たい瞼を開けば真っ白な空間だった。真っ白な空間は独特の臭いがして保健室なんだと知らせる。それからゆっくりと体を起こせば「あっ」と聞こえてええと確か吹雪くん、がいた。

「大丈夫?どこか痛いところはない?」
「、うん」
「ごめんね、僕が手を滑らせたからボールが当たっちゃったんだ、ごめんね、」
「べつに、平気」
「でも、」
「ほんとうに、平気だから」

すこし強めて言えば吹雪くんがしつこく大丈夫かと聞いてくることは無かった。壁にかけられた時計を見れば体育だけでなく次の授業も既に終わりちょうどその休み時間。わたしは結構眠っていたらしい。先生はいないのかと聞くと「先生は研修だって」と柔らかく答えてくれた。わたしにもこんな柔らかさがあれば、もしかしたら何か変わっていたのかも。

「あの…、先生が言っていたんだけど、ボールの衝撃はそんなに酷いものじゃなかったんだって」
「そうなの」
「あっ僕がボールを当てちゃった事を無かったことにしようとは思ってないよ!ただ、その、」

ちゃんと眠れてる?
眉を寄せてわたしを見る吹雪くんに息がつまる。苦しい。また真っ暗な海で溺れているような感覚だ。

「うまく言えないけど、なんて言うか、そんなに背伸びをする必要はないんじゃないかな」
「は、」
「きみはきみのままで、いいんだよ」

いつか誰かがわたしにそんなことを言ってきたら何にも知らないくせに分かったようなこと言わないでよ、なんて言ってやろうと思ってた。だけど優しく笑いながら頭を撫でる吹雪くんの手を振り払えずにえぐえぐ泣いているわたしは誰よりもこの言葉が欲しかった。頑張らなくていいんだよ、強がる必要なんてないんだよって誰かに言われたかった。そしてやっと強がることをやめたわたしは今きっとすごくしあわせなんだ。


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