シオンの花束 | ナノ




真っ赤な傘を差しているわたしを見て彼は何と言うのだろう。相変らず失礼な奴だと笑うのだろうか。それとも何も言わないのだろうか。
人は案外あっさりと亡くなってしまうものなんだと思った。今でも彼が亡くなったんだと実感出来ずにいるわたしはまだ彼の死を受け入れていないのだろうか。もしそうだとしたら、この腕の中にある花束は必要ないなと苦笑が漏れた。「やっぱり来ていたか」顔を向ければ口元を緩めた声の主と目が合った。

「鬼道くんも来たんだね」
「当たり前だろう」

何だかんだ言っても影山には世話になったからな、と微笑む彼はずいぶんと成長した。きっと総帥が求めていた鬼道くん以上に成長したと思う。心も体も考え方も、すべてが。

「不動くんとかは来ないの?」
「あいつは後から来るだろう。帝国の皆も遅れてくるそうだ。あと、雷門の皆も」
「そっか。きっと総帥も喜ぶね」
「そうだと良いが」

ふっと鬼道くんは笑った。彼は総帥がいた頃の鬼道くんより優しく笑うようになった。
彼も、帝国の皆も、きっと雷門の皆も、たくさん成長した。言い方は悪いかも知れないけれど、総帥を踏み台に、成長した。総帥が居たから成長できた。きっと総帥には一番感謝しないといけないんだろうなあ、なんて思いながら手を合わせ思いを伝える。

「そろそろ行こう」

彼の言葉でそっと瞼を開けると雨は上がっていた。傘を畳んでシオンの花束を置き立ち上がる。雨の上がった空はまだまだ高くて届きそうに無い。


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