甘い | ナノ


 


やけに派手な飾り付けをされたコンビニを見渡して確か今日がハロウィンだっけかと、ふと思い出す。ハロウィンだし、これまで頑張ってきた自分に何か買おう。そう思って飴玉を一袋手に取った。ハロウィンの正しい内容とは違うけどちょうど糖分が欲しかったからいい機会だ。それにもし私に「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ」と言うがきんちょが居ても飴玉一袋あるんだから悪戯をされずに済む。いいね、ハロウィン。素敵だね、ハロウィン。

有り難うございましたーと感謝の言葉が響くなかコンビニを後にして彼の家に向かう。早速買ったばかりの飴玉の袋を開けると中にはりんごやらオレンジやらと果物の絵ばかり。そこから苺の絵が描かれた物をつまんで口に放り込めば甘い味が広がった。
小さくなって噛み砕こうか、それとも噛み砕かずに放って置こうか悩み始めた頃に彼の家のチャイムを鳴らした。「おせーよ」と文句を言いながらも家にわたしを入れる彼はあまい。がりっと飴を噛み砕く音がするのと私が彼の家に足を踏み入れるのはほぼ同時だった。次は何味を食べよう。そんなことを考えながら彼の部屋へ向かった。

彼の部屋に入ったからと言って特に何かをするわけでもなく。彼は隣で雑誌を読んでいるし私も彼の雑誌を借りて読んだり携帯をいじったり。携帯をいじっていると、おい、と言われ画面から顔をあげる。

「今日ハロウィンなんだけど」
「らしいね」
「トリックオアトリート」
「おお、発音良い」
「そっちじゃねーよ」
「分かってるし。実は飴玉持ってるんだよー」

にやにやしながら飴玉をひとつ手渡せば彼は顔をしかめた。それでも飴玉を口にいれる彼はどこか可愛らしいので頬が緩んだ。かわいーねー。女の子にとっては素敵な褒め言葉を口にすると先程よりももっと顔をしかめた。「ちょっとこっち向け」「んー」携帯の画面に戻しかけた顔を彼に向けると後頭部を押さえ付けながら口付けてきた。かわいい。ころんと歯になにかが当たってすぐに甘い味が広がる。ちくしょうこいつ人があげた物をさり気無く返したな。酸素が恋しくなって彼の胸を押せばすぐに離れてくれた。
「人があげた物を返すからもう終わり」もうしませーん。そう言ったのに「もうちょっと」と彼が再び口付けてくる。しつこい。けれど嫌がる気持ちもなく寧ろ快く受け入れるあたり私もこの飴玉のように甘いのだろう。


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