真っ暗な空間からはテレビのあかりが漏れる。見てるのか見ていないのか分からない彼は膝を抱えてソファに座る。そんな彼の隣に腰を下ろせば深く沈んで彼が私にもたれそうになる。彼も学生だけど私は彼よりいくつも上の学生だし彼より身長も高い。だから体重が重いとかそんなこと気にしていない。うそだけど。 「今日で人類滅亡なんだって」 「…へえ」 「反応うすいね」 わたしに視線を向けることもなく彼は、だって今日はもう終わるだろ、と小さく言った。たしかに、今日はもう少しで終わるけれど。 「日付が変わる一分前に滅亡するかもしれないじゃん」 「そんなわけないだろ」 「なんで言い切れるの」 「だって、あり得ないだろ」 だから、何がだよ。言いたかったけど言わなかった。その代わりに「ほんとうに誰も信じないんだ」なんて零してしまった。ちがうのに。彼は鋭い目つきではじめて私に視線を向けた。ちがうのに。こんなことを言いたかったわけじゃないのに。彼よりいくつも年上だけどまだまだ子供なのだと知らされる。ごめんね。言いたい。それでも口からでる言葉は違う言葉で。 「前髪、伸びたね。あした、切ろうか」 「…明日は来ないんじゃないのかよ」 「だって、滅亡しそうにないもん」 「あっそ」 「まさき」 「…なに、」 「あしたさあ、」 一緒に買い物でも行こうか。面倒臭いとか言わないでね。一緒に行こうね。別に、いいけど。素っ気無い返事でも嬉しくって頬が緩む。まわりは暗いけれどテレビの明るさで頬が緩んでるのがばれそうだな、なんて思って私も彼の真似をして膝を抱える。そこに顔をうめた。 人類滅亡なんて、楽しそうじゃない。クラスの子とそう話をしたけれどやっぱり楽しくないな。彼と買い物に行くんだから、まだ生きてたい。どうか次に瞼を開けたとき、彼がちゃんと私のとなりにいますように。 |