メルヘンチック | ナノ




ついこのあいだ、お通夜があった。生まれて初めて死んだ人を近くで見て、生まれて初めて死んだ人の手を握った。そこには何にもなくて温もりさえも感じなかったし、そこから何かが生まれる事も無かった。私はそれが少しだけ怖く感じてすぐに手を離してそっと元の位置に置いた。それから手を洗ってもお風呂に入ってもあの冷たさは残ったままだった。気持ち悪いと思ったと同時に、あの冷たさはどこか風介の手とも似ていると思った。

風介は冷たい人だった。心が、という意味ではなく、体が冷たかった。いつだって冷たかったから夏の暑い日にはよく風介の手を握って涼んだ。けれど夏もそろそろ終わり秋が近付くと風介の冷たさはなんだか不要なものになってしまった。その冷たい手こそあのお通夜で握った手とそっくりだった。

「手、冷たい」

風介の手を握ると相変わらずの冷たさが皮を通して伝わってくる。なら離せばいいだろうと面倒臭そうに言う風介を無視して指を絡めれば指からも冷たさがひしひしと伝わってきた。人より体温が高いわたしにとってはかなり冷たく感じた。

「風介、死んでるみたい」
「私は生きている。勝手に殺されては困る」

ふふふと笑うと風介は眉間に皺を寄せた。そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいのに。いつだったか聞いたことがある。手が冷たい人は心が温かくて、手が温かい人は心が冷たいと。だとしたら私はとても心が冷たい人になるけれど風介は反対で心がとても温かい人になる。そのことを伝え、わたしの心を温めておくれとどこかのお伽話に出てくるような喋り方で喋ると鼻で笑われた。その後に風介がおかしな事を言うもんだから私はまたふふふと笑って「仕方ないなあ」と言いながら風介の冷たい手を両手で包み込んだ。


「では勝手に殺された私を生き返らせておくれ」




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