とりあえず、ジャージで来なくて良かったと思った。 DVDを借りにお店に入って適当にぐるぐる見ていたら同じクラスの佐久間くんに会った。すごく緊張する。佐久間くんとは特に親しい仲ではないし、寧ろただのクラスメートだし、外見も中身も素晴らしい佐久間くんとは違って私は地味人間だし。佐久間くんと目が合ってから私はどうすることも出来ずに固まっている。佐久間くんも動かない。緊張して手汗をかいている気がする。そんな手で持っているDVDをぎゅっと握りしめる。 「こん、にちは…」 「こんばんは、だろ」 「あ…、こんばんは」 なんとか挨拶をして頭を下げる私を見て佐久間くんは笑った。佐久間くんってこんな風に笑うんだ、とどこかで思った。何となく目を合わせるのが嫌で自分の前髪を撫でた。ちらりと指の隙間から見上げればまた佐久間くんと目が合ったので目を逸らせば前髪を撫でていた手を掴まれた。 「え、なんですか、」 「いや、目逸らすから」 「苦手なんで…!」 「ふうん」 俯いて答えれば覗き込んでくるから顔に熱が集まるのがわかる。はやく離してくれないかと心の中で願っていると佐久間くんがふっと笑って掴んでいた手を離してくれたので 安心する。 「俺さ、もう帰るんだけど、」 「え、あ、じゃあまた明日?うん、明日、」 「うん、じゃあまた明日」 すれ違う前に佐久間くんが、あとその服、似合ってると言って少し照れたように笑うからこっちまで恥ずかしくなる。やっぱり、ジャージで来なくて良かった。 title/変身 |