友達の家からの帰り道にばったり、同じクラスの基山くんに出会った。

「こんばんは」
「こんばんは…って、こんな遅くにどうしたの?」

私がそんな質問をすると、基山くんは少し声をあげて笑って、君こそ、と返してきた。私たちのような年の学生がこんな時間に外を歩いているなんて、ちょっとおかしい。私は友達の家で明日の少テストの勉強会をしていた。少テストなのに成績をつける時、結構重要視するからなと言われた教科だったので厄介中の厄介、私も友達も一人で机に向かうことが出来ないたちだから、お互い正面切って一緒に黙ってやるしかなかった。

「友達の家で、明日の少テストのね」
「ああ、あれか。そう言えば明日テストするって言ってたね」

んん?その口ぶりは。もしかして、基山くんは…。「勉強やった?」「全然」そんなさらりと答えられても、反応に困る。

「先生、成績につけるって言ってたじゃん。期末テストだけじゃ厳しいよ」
「あの人ね、そう言いながら少テストの結果を全然成績に付け足してくれないんだ」
「……えっ!?」
「ちなみにこれ本当」

うん、まぁ嘘をついているように思えないけれど。でもどうしてそれを基山くんが知っているんだろう。特別先生と仲が良いようにも見えないし、基山くんは頭がいいけど基山くんより頭のいい人は二十人くらい学年にいる。だから、ひいきされてるわけでもない。考えていることが顔に出たのか、基山くんはすらすらと理由を述べ始めた。

「一学期のテストでね、少テスト全部満点取って期末テストも九十四点取ったのに成績が4だったんだ」
「な、なにその点数!?」
「ね、だからそれ嘘だよ」

ちょっと待った。なんだそれ。私は少テストでさえ満点なんて取ったことないし、九十点以上なんて滅多に取れない。それをあっけらかんと言ってしまう基山くんが無性に羨ましく思えてくる。私もそういうことすらっと言ってみたいなぁ。

「うーん、でも玲名は少テスト全部満点じゃなかったしテストも七十一だったけど5だったよ」
「聞いてないな。その話」
「……あっ」

これは基山くんには秘密にしろって言われてたんだ。家が同じだから何かとそういう話をすると面倒くさいらしい。ごめん玲名、私は心の中でひっそりと謝った。言ったら絶対怒られるだろう。
基山くんの話を聞くに、そんな好成績を残している基山くんより玲名の方が成績がいいとなると、これはもう、あれしかない。

「基山くん、先生に好かれてないんじゃないかな」
「え?」
「だって、玲名はよく指されるし休み時間に分からなかったことききに行くし、先生からしたらいい子なんだよ」
「そうか、なるほどね」
「たぶんね。私の勝手な想像だけど」

そういう生徒の方が何もアクションの無い生徒より特別に見えるのは当たり前だ。私はなんだか気恥ずかしくて行けないけど、すれば少しは成績が上がるのかもしれない。と、基山くんはため息を吐いた。

「だったらやっぱり明日のテストは勉強しなくていいや」
「いいの?」
「どんなに頑張っても好かれてないなら成績は上がらないだろ」

その通りである。ため息をついたわりにそこまで落ち込んだ様子でもない基山くんは、私の持つカバンを見ていた目を私の目に合わせた。どうしたの、とさっきと同じことをきくと、少しだけ緑色の目を細めて静かに言った。

「玲名と仲がいいのは知っていたけど、今になって初めてちょっと悔しいかもね」

基山くんの言うことが難しくて、私は脳みそをひねる。頭のいい人の言うことは普通の人とは違うよなぁ、のん気な言葉を返せば、今度は目だけで笑われた。いやな笑い方じゃなかったので気分はそのままだ。

「今度、分からないところあったら教えてあげるよ」
「え、そんな、悪いよ」
「友達には悪く思わないのにオレには思うんだ?」
「うっ、難しいこと言わないで」
「ふふ、ごめん。いいよ、変に気を遣わないで」

半ば強引に放課後の居残りを約束されてしまって、私の成績アップに道が出来たような、気がした、かも。後日そのやり取りを玲名に話したら、「馬鹿か天然かどっちだお前は」と言われてしまった。


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