「今日もいい天気だな」

空を見上げたカイルがそう言ったので、私も彼にならって上を見上げた。確かに、真っ白な雲がひとつ。それ以外は飛行機も何も見えず、青が広がるだけで、時々どこからか鳥の鳴き声がきこえてくる。私の視界に、風ではためいたシャツが映って私は下を向いてカゴに手を入れた。

「みんなは?」
「あー…買い出し」
「チーム全員で?そんな大人数で行く必要ないのに」
「まあな」

煮え切らない返事しかもらえないから、私はそれきり押し黙って干す作業に専念する。カイルが何故ここに残ったのか、どうしてみんなで行ったのか、訊くのも面倒だ。
デザートライオンのマネージャーになってから毎日チームのために動いてきた。エリザさんにも褒められる私の働きっぷりといったら、チームのみんなからは感謝してもしきれないくらいだ。それに、私にはマネージャーの仕事以外にも大変な仕事がある。それは、今隣に立って空を見上げているカイルを朝起こす係だ。カイルの寝起きは、ナセルやザックその他チームメイトもお手上げのレベルだから、ついに私に回ってきた。私が起こすとなかなか目覚めがいいだなんてカイルに言われたせいで、そのまま係が他の人に回らず私の元で定住してしまったのだ。おかげで朝から晩まで、チームに尽くす日々だ。まぁこれも、世界大会が終わったら終わるのだけれど。

「なぁ」
「んー?何?」

私は手を休めずカイルの問いかけに反応した。

「世界大会が終わったら何をする」

随分気の早い話だなと思い、風で揺れる洗濯物から顔を半分出してカイルを見る。カイルは冗談を言うタイプでは無いので、これは真剣に尋ねているのだ。もしや明日のイナズマジャパンとの試合に弱気になっているのか。カイルにしては珍しい。

「うーん、何しようかな。とりあえず帰って買い物行く」
「買い物…。お前好きだよな…」
「何か?」
「他は?」

何食わぬ顔でスルーされた。よくあることだから気にしないけれど。それから?私は何をしたいだろう。買い物行って、美味しい物食べて、友達と話して、やりたいことはたくさんある。それらを全て言い終えると、カイルの眉間に皺が寄った。彼のこれは機嫌が悪くなったというサイン、しかしそれを見たからといって別に私は焦ることもないし縮こまることもない。カイルは言いたいことをストレートに言わないから、私はカイルを理解しきれない。洗濯物を全て干し終えて、私は空になったかごを持って宿舎の中へ入ろうとした。
不意に、カイルが私の腕を掴む。動きが止まり、私は息を呑んだ。

「……何?」
「さっきのリストにオレとのことがないのはわざとか」
「ええ?」
「答えろ」

その目はデザートライオンのキャプテンではない、一人の男の目であった。獣のような獰猛さこそ感じないが、答えを求めるその強迫性は私の胸に突き付けられている。「……ごめん」私は素直に謝ることにした。「忘れてた」「はぁ?」怒るというより呆れたような声音で私の言葉に反応するカイルは、複雑な表情をしたのち項垂れてしまった。

「忘れてたって…」
「ごめんね、忘れてたっていうか、その、カイルといるのは当たり前っていうか」

わざわざ一緒にいたいだなんて願うこともなく、傍にいてくれるものかと思ってた。そう言うとカイルは顔を上げて子供のように目を丸くさせ、照れ隠しからか意地悪な笑みを浮かべた。口元が若干しまりのない状態だが。

「まぁお前のいう通りだな」
「あら、調子のいいこと」
「何だ?」
「んーん、何でもない!」

外ががやがやと騒がしくなった。どうやらみんなが帰って来たみたいだ。太陽に照らされ出来た影は短い。そろそろ昼食の支度をしなければいけないとカイルに伝えると、彼は少し考える素振りを見せてから、掴んでいた私の腕をぐいと引き寄せた。

「わ、っ」

軽く触れた唇の感触に、持っていたかごを落としてカイルから離れる。口元を手で隠してカイルを見る私の顔が、どんどん熱を帯びていくのが分かった。やられた。

「今はこれで我慢な」

固まる私をよそに宿舎の中へと戻って行ったカイルの背に、我慢出来なくなりそうなのはどっちだ馬鹿やろう、と無言のメッセージを送りつけた。

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