「星はいつも綺麗だと、前に君に言ったことがあるね」

草は早くも露で身を濡らしていた。こんな満天の星空の中に、太陽のように、それでいて儚げに静かに燃える髪を揺らすのは慣れている、とヒロトは言った。その言葉は暗に、自分は星が好きだと公言している。「…私と同じ。でも……嫌、じゃないの?」ヒロトは呆気に取られたようだった。柔らかく笑って、私の手に自分の手を重ねて、肩に頭を乗せてきた。重い、この単語はきっと彼には届かないだろう。

「君と同じ、だなんて素敵じゃないか」

うっすらと白く濁った空気が空に消えて、私たちはしばらく星を見つめていた。もう何年何十年何百年も前の光。星を見ていると、人間の過去まで見抜けてしまいそうで怖かった。恐らくヒロトはそんな私の恐怖心を見抜いていたから、こうやって部屋を抜け出した私を叱ることもせずに隣にいてくれるのだ。ヒロトの優しさに甘えることは罪なことではない。私の平生を保つために用意された運命なのだから。ねえ、あのさ。私の視界に白い息が映った。

「オリオン座の有名な三つ星の下にあるもう一組の三つ星って、見たことある?」
「ない。ヒロトは?」
「オレも。あれは空気がすごく澄んでいないと見られないそうだよ」

以前ヒロトに天体の本を貸してもらったことがある。ページの角が擦り切れて丸みを帯び、灰色か茶色かどっちつかずの古臭を醸し出しているそれはヒロトの大変なお気に入りだった。今もまだあるとは思うが、最近めっきり星については話さないので真実は分からない。赤く光った星が一瞬弱く見えた。

「じゃあここじゃだめだね」
「夏にみんなでキャンプに行ったところだと見られるのかなあ」
「多分ね」
「また来年も行きたいな…」
「……私と同じ」

声も顔も分からずとも、ヒロトが笑ったのは感じとれた。肩に乗るヒロトの頭は、どこか幸福を孕んでいる様子である。綺麗な夜、星が今にもなめらかに流れだして右往左往しながら動きだしそうな夜。静かな夜、隣に人の温かみを感じながらぐるぐると私の気持ちが回りだしそうな夜。ヒロトは、夜が怖くないのだろうか。「…君が」ぽつりときこえたアルトに、星がちかちかと反応するように光る。

「君がオレを必要としているから、オレはオレでいられるんだ」

「いつもそばにいてくれてありがとう」ひゅう、と星が尾をひいて空をかけていった。

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