午後十時四十九分。仕事を終えた彼女は各駅に乗って降りてくる。それから自宅まで少し距離があるから心配するのだが、彼女は「大丈夫」と手に携帯を握る。ヒールのついた靴を履いてスカートは膝丈、おまけにイヤホンをつけて音楽を聴いている。まったく、夜道は危ないんだからもっと注意してほしい。オレの悩みと心配は尽きない。

午後十時四十九分。いつもと様子の違う彼女が改札口から出てきた。すごく心配、というか不安げに顔を曇らせている。握るだけの携帯をしきりに開閉しながらタクシーを呼んで帰路についた。オレがいるのにも気づかなかった。どうしたんだろう。メールしようと思ったが、ああいう様子の時の彼女は精神がいっぱいいっぱいで返信してくれない。彼女は何も教えてくれない。様子がおかしいことくらいオレには分かるんだから教えてくれたっていいだろ。電話でもすれば話してくれるだろうか…。

午後十一時二十三分。今日は帰りが遅かった。心配になる。しかし女友達と二人、笑いながら改札口を出てきたのを見て、オレは帰ることにした。友達がいるなら安心だ。昨日の不安げな表情は見受けられないし、何より友達と楽しそうに話しているんだから邪魔しない方がいい。彼女は人よりずっと友達思いな、優しい性格の持ち主だ。






午後十一時四十二分。少し間隔が空いてしまった、今日また彼女は一人で改札を出てきた。オレに気付かずにそのまま真っ直ぐに自宅への道を進んでいく。一人で歩くなって言ってるのに、いつになったら分かってくれるんだか。そろそろ本気で彼女に言わないと分かってくれないようだな。全く、いくら言っても耳を貸さないからストーカーに後をつけられるんだ。そう、オレがしばらく日記を怠った理由は、彼女をつけるストーカーの正体をつきとめていたからだ!

彼女の家までは人気の無い道を歩いて行かないといけない箇所が一つある。おそらくストーカーはそこで何かをするだろう。彼女に危害が及ぶ前に止めなければいけない。彼女が角を曲がった。来るぞ!どさっと鞄の落ちた音がした。角を曲がる。目の前で彼女が男に腕を掴まれていた。迷わず男に殴りかかる。男が怯む。逃げていく。一連の出来事が終わって、彼女は何事もなく助かった。オレも一安心。彼女の方に向き直り、名前を呼んで笑いかけた。「大丈夫か、怪我はないか。良かった無事で、怖かっただろもう安心―…」




「あなた……誰ですか?」




しまったオレもストーカーだった。

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