「もう離さないよ」 「うんっ…うんっ…!」 「……愛してる」 わっ、と体の温度が急に上がった気がして、反射的に拳を作り強く握ってしまった。いけないいけない、先輩である私がこんなでどうする。とりあえずもう少しで終わるんだ、落ち着け私。 「いい映画でしたね」立向居くんが私の手を握りながら映画の話題に触れてきた。曖昧な返事を返すのも悪いので、きっちり映画の感想を含めてそれに応じる。立向居くんは、同意である相槌をうちながら私の話をよく聞いてくれた。 付き合って半年、サッカーに勤しむ彼の、久しぶりの休日に図々しくデートをこじつけたのは私だ。嫌がる顔一つ見せず、立向居くんはすぐに答えた。「行きましょう。映画なんてどうですか?」デートで映画といえば恋愛ものに限るだろう、と先週公開になった純愛ストーリーのものをチョイス。私服の立向居くんにはいつもの後輩っぽい雰囲気はなく、反対に大人っぽさを醸し出していた。そんな立向居くんにどきどきすると、「行きましょう」と手を握られ映画館へ、そして鑑賞後の今に至る。今私たちは喫茶店でサンドウィッチを頼んだ具合だ。 「純愛ものはいいですね」 「そうだね」 「最後はやっぱりハッピーエンドが好きです」 「私はバッドエンドも好きだよ」 お待たせしました、とサンドウィッチが目の前に、コーヒーがそれぞれの前に置かれる。砂糖とミルクをコーヒーの傍に添えると、ごゆっくり、と恭しく頭を下げてウエイトレスは店の奥へ戻っていった。サンドウィッチは一皿。トマトとレタスのサンドが一つに、チーズとハムのサンドが一つ。立向居くんはサンドを見たあと、私の顔をちらりと窺った。 「立向居くんはどっちが食べたいの?」 「いえ、先輩からどうぞ」 「遠慮しないで。ハムとチーズなんでしょう?」 「……はい」 遠慮がちに立向居くんの手がハムチーズサンドに伸びる。私は彼にそれ以上気を遣わせないように、コーヒーに口を付けた。 「美味しいです!」 「本当?」 「ここのチーズは他の店と違うっていうか…」 「立向居くんって意外とグルメなんだね」グルメ?彼は目をしぱたいた。私はトマトサンドを手に取り、小さく一口。確かにここのサンドウィッチは美味しい。コーヒーに自分の砂糖とミルクを入れた立向居くんが、私のも欲しそうな目を向ける。彼は結構甘党のようだ。 「そう言えば、さっきの映画の彼氏の方も甘党だったよね」 「あ、はい」 「どうぞ。私使わないから」 すみません、立向居くんが私から砂糖とミルクを受け取った。彼のカフェオレは更に白みを帯びる。 「…何だかさっきの映画の恋人みたいですね」 「え?」 「喫茶店で彼氏がカフェオレを飲んで、彼女がブラックを飲んで、彼氏がそこで最初の告白をしましたよね」 「そうね」 「というわけで、」立向居くんは持ち上げたコーヒーをテーブルに置き、自分の両の手の指を絡めあわせた。そして部活中に見せる真面目な顔になり、「オレもそれにあやかってみようと思います。先輩」慎ましやかに私を見つめた。 「愛してます」 |