「…もしもし、立向居です。今日の夕食は先輩の担当でしたが、仕事が早く終わったのでオレが担当します。鍋でいいですよね?もうスーパー行って野菜とか買ってきてしまったんですが、何かあったら連絡ください。では」

伝言はそこで終わっていた。ぱちんと携帯を閉じる。電車が来るまであと十分近くある。中途半端に都市から外れているものだから、電車の来る間隔が広い。吐く息が白い十二月、人肌恋しい季節だ。しかし、よくあんな長い伝言が入ったものだ。手袋をはめた手で携帯を開き、先月機種変をしたことを思い出した。一つだけ付いたストラップ。携帯とこれには温かい思い出が入っている。






まだ三ヵ月のことだった。床に寝ころんで携帯を弄っていたら、キーが突然反応するのをやめた。電源ボタンを押しても反応しない。はああと息をついて仰向けになると、中腰で私をじっと覗きこむ二つの目と目が合った。

「先輩。お風呂あがりました」
「…立向居くん」
「はい?」
「最新の機種でいくらするかなあ」
「は?」

携帯が、と言って携帯を彼の目前に突きつける。私の携帯を少し弄った彼は、困り顔で笑った。彼がこの顔をするということは、完全に壊れてしまったのだ。三年の命だった。もう携帯本体は諦めるとして、データが残っているか心配になる。明日は幸いにも休日、仕方ない。携帯はないと困る。「いつ買い替えに行ってくるんですか?」「明日。ちょうど休みだし」私に携帯を返し、仕事のカバンから手帳を取り出すと、難しい表情で顎に手をあてた。

「オレも行きます」
「え?明日仕事でしょ?」

「休みもらいます」いやいやいや。頑固な彼は私の説得もきかず、翌日二人揃って携帯ショップに足を運んでいた。店員さんの紹介を断り、彼は私よりも深く考え込んでいた。自分の携帯じゃないのに。その後無事に契約が完了して、紙袋を持って家に帰り箱を開けると、彼は私の横で自分の携帯を持って何故かほのかな笑顔だった。そしてやたら電源をつけることをすすめてくる。不審に思いながらも彼の言われた通りにする。ディスプレイが明るく灯った。「先輩!赤外線受信してください!」「う、うん?」ぴったりと携帯をくっつけて何かを送りつけてきた彼には企みがあったのだ。受信したのは、アドレス。

「一番になりたくて。先輩のご両親には申し訳ないです」

ストラップはその次の日、彼がペアを買ってきた。赤い方が私で、強制的に付けられた。私が風呂からあがってきた時にはもう携帯と仲良しこよしだった。決して束縛をする性格ではないのに、この時の彼はいやに私に強いてきた。滅多に見られないその姿に惚れ直したのは、彼に秘密にしている。






アナウンスが、ホームに電車が来ることを告げた。いよいよ雪がちらほら視認出来る。白線の内側までお下がりください――素早い動きでアドレス帳を開いた。

「もしもし?」
「かっこいいんだよばかやろー」
「へ?」

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