私は、街に出ればちょっとした有名人だ。小さな子供も、陽気に歌うおじさんも、私を見かければ名前を呼んでくれる。別に私は女優でも何でもない、ただの一般人。だけど、私には周りと決定的に違うものがあった。それとは、指に光るリングが答えを示してくれている。陽の光を受けて輝いているこのリングは、私の婚約者であり世界のスターと言われるサッカー選手、フィディオ・アルデナがプレゼントしてくれたものだ。

「あら、ごきげんよう。アルデナさん」
「やめてよ、まだそのファミリーネームじゃないのよ」
「いいじゃないの、どうせもうすぐでそうなるんだから」

肉屋の奥さんが、私を見て軽快に笑った。やはり少しの恥ずかしさは拭えない。いつかは、そうは言ってもまだ慣れないものだ。薬指にはまるリングを微笑ましげに見つめる。

「ああ、そうそう。今日はステーキを二枚、お願いね」
「二枚?友達でも…あっ」
「そういうこと。とびきり美味しいのをよろしくね」

奥さんの顔を覗いてみれば、彼女は私に焦点を合わせていない。非常に驚いた表情をして私の後方を見ている。瞬時に、頬にさわさわとしたものが触れた。お腹に当たるのは、二本のしっかりした腕。こんなことをするのは、私の知っている中で一人しかいない。「…おかえりなさい」「ただいま、元気にしてた?」フィディオは私の肩に顔を埋める。肉屋の奥さんはその様子を見てにこやかだった。

「街の中をまた走りまわってたの?」
「早く君を抱きしめたくてね」
「家でゆっくりしてくれてて良かったのに…」

言うと、フィディオは口をきゅっと結んで私を睨んだ。「君はオレに早く逢いたくなかったの?」フィディオは怒るのだが、こういう彼は可愛い。小さな子供のように拗ねて、私からの告白を待つ。付き合い始めた頃からその癖?は健在している。逢いたかったに決まってるでしょ、「だよね!」まったく、なんと調子のいいことだろうか。

「好きだよ。世界で一番、君を愛してる」

純白のドレスを着て私のファミリーネームが変わる日も近い。

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