※アンケート結果一位クラス






寝ぼけ眼で枕元の時計を見ると、家を出る時間を十分過ぎていた。

「遅刻ー!!」

頭は急に冴え、布団を蹴って跳ね起きると、朝食のハムエッグを口に押し込むようにして家を出た。背後でお母さんの声が聞こえたけど気にしない。説教は家に帰ってからだ。今はとにかく学校へ走る。ああ、くそ、昨日の夜電話でアンジェロとスイーツの話で盛り上がってしまったからだ。アンジェロは大丈夫だろう、あの子は私よりしっかりしている。遅刻すると家に電話が行く、まずい非常にまずい。余計な考えはあとだ、遅刻する!!

「名前!」

私の横に並ぶ男。そいつは軽快な音を立ててペダルを漕いでいた。自転車かよくそ!ずるい私も乗せろ!そいつの肩に手をかけると、わ、わ、とか言って少しバランスを崩した。

「危ないだろ!何だよ乗るのか!?」
「そう、遅刻するから乗せてお願いします!」
「変なところで丁寧だな…。まあいい、後ろに乗れ」
「ありがと、ジャンルカ!」

勢いをつけて後部に跨る。ジャンルカの肩に手をやり、車輪の突起した部分に足をかけると、速度が上がった。「振り落とされるなよ!」そう言いながらも、私に気づかって安定した走りをしてくれるのだ。ここのところがジャンルカは優しい。「今度おごれよ!」「分かってる!パン一個ね」「一個かよ」「ごめん二個!」






いつもと同じ時間に学校に着いて、自転車置き場までついていく。流石に一人で教室に向かうことはしない。ジャンルカの額には汗が滲んでいる。

「ありがとう本当助かった」
「久々に人乗せて走ったな」
「お疲れ」

パン二個とジュースな、と言ってジャンルカは前を歩く。ジュースが増えてるが、まあいい。今月はお小遣いをそんなに遣っていないのでお金には余裕がある。ジャンルカは教室の戸を開けた。今日のランチおごってくれ、と言葉を残して教室に入る。私も、分かったあとでね、と応対し戸を開けて教室に踏み込んだ。

「エドガーおはよ!」

机で勉強していたうちのクラスの学級委員長エドガーの背中を叩くと、うっと声を低く洩らして恨めしげな瞳で私の顔を見上げた。

「おはようございます。いきなり人の背中を叩かないでください」
「あ、ごめん」

廊下側にあるエドガーの机とは全くの反対に位置するのが私の机だ。日当たりの良い机、昼寝にはもってこいだ。カバンを置いて席に着こうとすると、後ろのドアが開いて陽気な声がした。

「チャオ!」

出た。「名前おはよー!!」教室に入るなり私に向かって走ってくる奴を上手く交わして、エドガーの席へ走る。私によけられた奴は、酸漿のように口を膨らませる。

「何で逃げるんだよー」
「マルコはいつも変態なことしてくるから!」
「スキンシップだよ!」

急に肩に手が置かれて、耳に息がかかった。ひっと声をあげると、背後にフィディオが立っていた。「フィ、フィディオ」「今夜どう?」何がだ。

「もうやだ…このクラス。エドガーしかまともなのがいない」
「オレだってまともだよ!」
「朝から変態発言する奴のどこがまともなの!」
「名前、オレはまともだよね?」
「私のフィルターにかかればアウトです」

フィディオの危ない発言にはいつもスルーをかまし、マルコのスキンシップには回避を決め込んでいる。そんな私には、エドガーがとても正当な人間に見えるのだ。ああ、他のクラスに行きたかった。テレスのいるクラスなんかはとても落ち着いている。何かと頼りになるジャンルカもいるし、ディランだって面白いことを言って笑わせてくれる。それに比べて私のクラスは…。まず、フィディオとマルコというコンビがいけない。ちなみに、二人の得意な教科は保健体育だ。これが何を意味するか分からない程、私は馬鹿じゃない。

「ねえエドガー、このクラスから別のクラスへ移っちゃだめかな」
「あなたなしで二人を止めることが出来ると思いますか?私一人で」
「…ごめん。いくら学級委員長のエドガーでもそれは無理だよね」
「ええ」

あの二人のことで一番かわいそうなのは私ではなくエドガーだ。よく彼らに振り回されてしまうらしく、私よりも彼らについては詳しい。果たしてそれがエドガーにとって幸福なのかそうでないのかは、彼らに対する日頃のエドガーの態度を見ていれば一目瞭然である。完璧にマイナスだ。保健体育が終わったあとのフィディオたちの会話には嫌悪感丸出しでいる。そういうところに気づかない鈍感なフィディオとマルコは、いつかエドガーが過労で倒れたら看病する係に任命されている(エドガーが勝手に決めたのだ、お疲れ様)。私もエドガーも、なるべく彼らに関与しないように細心の注意を払って学校生活を送りたい。






昼休みになると、フィディオとマルコは揃って教室を出て行く。廊下でフィディオの明るい声が聞こえた。

「エドガーは行かないの?」
「先生のところに寄ってから向かいます」

しばらくするとグラウンドが騒がしくなった。始まったのだ。今日もいつものように友達とピロティから外へ出る。既に人が群がっていて、しきりに声援を送っていた。

遠くからでも見える。フィディオがシュートを決める。歓声があがる。それに応えるフィディオと対戦しているのは、隣のクラスのテレスとジャンルカ(おごりだというのを良いことに豪華なランチを頼みやがった!)、そしてディランだ。「今日もギンギンだね、フィディオ!」「まあな、」「!」フィディオがディランを抜いた時、エドガーがピロティから出てきた。

「私がいないのに三点差で勝っているのですか…。今日は随分と点差が開いていますね」
「今日フィディオが調子いいんだって。早くエドガーも入ってきなよ」
「それでは、応援よろしくお願いしますね」

昼休み、毎日恒例のサッカー対決だ。二ヶ月前、サッカークラブに所属しているフィディオが、クラス対抗でやろうと言い出したのがきっかけであり、毎日ランダムに対抗をしている。昨日は私のいるA組とビヨンのいるC組だった。何かを賭ける時もあれば、ただ単にどちらが勝つかでやる時もある。今日は何か賭けているのだろうか。応援に夢中になっている友人が教えてくれた。

「A組が負けたらマルコがパスタをご馳走しなきゃいけなくて、B組が負けたらディランがハンバーガーをおごらなきゃいけないんだって」
「うわ、ディランすごい出費」

その後、点を取ったり取られたりの攻防戦が続き、ついに昼休み終了のチャイムが鳴った。マルコが歓喜の声をあげる。結果はA組の勝ち。本日絶好調だったフィディオは、女の子たちに笑顔を振りまいていた。ディランが地面に膝をついてうなだれている。かわいそうに。あとで慰めに行ってあげたい。フィディオとマルコがこちらに向かって走ってきた。

「名前、どうだった?」
「フィディオ、今日調子良かったね」
「あ、分かった?」
「テレスいたのにあんなにゴール決めるなんて珍しい」

マルコが、フィディオの肩に腕をかけてにやつきながら私の顔を見た。

「フィディオは調子良かったというより、いつにも増して真剣だったんだよ」

言い終わったあともにやにやしている。私は素直に疑問に思った。「何で?」フィディオがさっと血の気を引かせてマルコの口を塞ごうとする。「バカ!余計なことを…」「いいじゃんいいじゃん。フィディオがすごい真剣だったのはね、」

勝ったらアダルトビデオ貸してやるって言ったからなんだよ!

私は呆然としてその場に立ったままでいた。フィディオたちの背後から、エドガーが髪を豊かに波打たせてこちらにやってくる。言うことは一つだった。






マイクラス
エドガー!一緒にクラス変えしよう!

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