町を外から眺めてみると面影がないように感じたが、いざ住宅地へ入り込むとノスタルジアが湧いてきて記憶も徐々に起こされていった。そののち、数分経って車は止まり、私がまだ懐かしさを感じる場所に落ち着いた。新しい家の前に来て、そこで初めて車窓を開け外の空気を肺に詰め込む。すると急に散歩したくなった。だけど荷物の片付けがある、散歩はしばらく先になりそうだ。車を降りてダンボールを受け取った。私の転入する学校はここからさほど遠くなくて、歩いて行ける距離なのだそうだ。この広いアメリカという土地で学校に徒歩で行けるのは珍しい。そんなところに位置する町だ、自然と子供が集まる。私の家の隣の家も、その隣の家も、庭にブランコや小さなマウンテンバイクがある。この中に、もしかしたら。思いだけが突っ走り、ダンボールを抱える腕に力が入った。






ついに転入する時が来て、私は思い切って教室に踏み入った。心臓の鼓動を喉で感じる。そのくらい神経も過敏になり、要は緊張で頭がいっぱいだったのだ。およそ五十の瞳が私を射抜く。先生が私の背中に手をあてて、私の紹介をした。その間私は永遠に下向きだった。名前も何か言ってちょうだい、と先生が私の背中から手を離した。たどたどしい口調で挨拶をし、簡単な自己紹介を済ませた。席に着くと、後ろから肩を叩かれて、振り返ると女の子が笑っていた。私はその子とすぐに仲良くなった。彼女は親切だった。私は色々教えてもらい、帰りには大体の先生の名前を覚えていた。そうだ名前だ、私は彼女に訊かなければならないことがあった。忘れていない、私はこの町に“戻ってきた”のだ。「あのさ、」

ディラン・キースって男の子を知ってる?

このあと驚きの言葉が返ってくるなんて、私は予想だにしなかったのだ。だけど、それは私を哀しみの世界へ連れていくきっかけ、ほんの一部に過ぎなかった。

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