冬のジャンルカ






身震いをして目が覚めた。驚くことに、昨日までは見えなかった空気の色が視界をかちかちと包んだ。壁にかかる丸い形の時計を覗けば、いい時間帯、起きるか。横を向いた体を起こして、何もかかってない背中を感じた。毛布が腹でもみくちゃにくるめられている。どうりで寒いわけだ。今日の自分を景気付けるために、外界と部屋を明確に遮るカーテンを開けると、凍えた太陽が青い街を照らした。おはよう、自然と口元が上がる。

机の隅のカレンダーに目を移し、昨夜何度も確認したにも関わらず、日付をゆっくり、目を追って日にちを噛み締める。ベッドの脇に丁寧にたたんで置いておいた洋服をそろりとつまんで、掲げてみせる。ばっちりだ。昨日朝から悩んだかいがあった。寝間着を脱ぎ、はた、止まる。せっかく早起きしたんだ、シャワーを浴びてすっきりしよう。上半身を脱いだまま部屋を出ると、冷ややかな空気が身を巻き今日二度目の身震いを起こした。鳥肌の立った体のまま廊下を歩き、素早くシャワーを浴び、体が冷えないうちにと洋服を着れば、家の中はさっきよりずっと暖かみが増している。キッチンには既に朝食の香りが漂い、テーブルの上の新聞を目にして席についた。新聞を手に取って即座に目にするのは今日の日付、これでようやく一息つける。冬が来た。

いつにない味の濃い朝食を終え、部屋に戻るとベッドの上の片付けを済ませた。綺麗になったベッドに腰を落ち着かせ、ベッド脇の茶色のブーツに足を忍ばせた。よく馴染んだ革にこの日ばかりは愛着が湧く。それから上着に袖を通しいよいよ、というところで待ち望んでいた音が耳に触れた。これほどにインターホンを愛くるしく思ったことなどない、鍵を開ける手は覚束なく、誰に向けてでもない挨拶、行ってきますを言ってノブを引いた。マフラーを風がからかう。

「おはよう、ジャンルカ」
「おはよう、待ってた。さあ行こう」

サッカーの試合で忙しかった休日も空きが出来て、今日は待ちに待った彼女とのデートだ。冬を迎えた今日、オレの心は春の陽気に支配されているというのに、街は久しい冬の感触に埋もれている。吐く息の白さ、肌に刺さる尖った空気、横で歩く彼女の頬の赤みがオレの心に冬を滲ませた。彼女の淡い色のマフラーに目がいって、しばらく彼女に見とれる。触れようと手を伸ばして、彼女は小さく体を震わせた。

「寒い?」
「えっ、あ…そうだね、寒いかな」

手は厚いコートにしまわれて、肩も少し上がっている。そういえば、彼女は寒がりな方だった。懐かしい気候に上手く寄り添えていないのは街だけではないらしい。どちらも手袋は持ち合わせていない。胸が跳ねる、彼女の腕を掴んで引き上げ、何にも纏われていない手を目にした。驚く彼女に笑みを送り、寒そうに空をふらふらする小さな手に自分の手をとろりと絡ませた。甘い力で彼女を引き寄せ、戸惑った表情の彼女を見つめる。一人じゃ寒いだろ。な?上着のポケットに照れた温度を潜り込ませた。






コロニー
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