必死なフィディオ






別にフィディオにとってそれが普通なことではあるけれど、私もフィディオの性格知ってるから気にしないけど、でもやっていい時とやっちゃいけない時とあるよね!?なんで、なんでデート中に他の女の子に「君可愛いね」なんて言っちゃうのだろうか。その言葉を聞いた瞬間ショックで力が抜けた。心で動いていた幸せも剥ぎ取られる。フィディオの女の子好きは知っている、ちゃんとそれを理解して、学校の廊下の向こうで楽しそうに私以外の女の子と話をしている姿を見ても、私はよく我慢していると思う。サッカー以外のフィディオの楽しみといえば、女の子と会話をすることだから、だから仕方のないこと、メールや電話でいつも、「オレの大好きな子は名前だけだよ」と二回くらい言ってくれるから堪えられるのもある。嬉しい、のだがさすがに私もこれは限界。無理。

「名前、ついうっかり…ごめん!」
「もう無理、もう嫌だ、狙ってるとしか思えない」
「狙ってないって!」
「頭いいのに狙ってないでやるなんて無理だからね」
「頭いいのは関係ないだろ…!?」

デートをやめて帰ってやろう。もうこの男に付き合ってやるのはやめだ。本当、溜まってたんだなあ。フィディオが他の女の子と仲良くする度に体が重くなった。そして心臓が速くなり、息をするのもままならなかった。無意味に遠くから、フィディオ、と名前を呼びたくなった。私はフィディオのことで頭いっぱいなのに、フィディオがすごく好きなのに、フィディオは違うの?もう分からないよ、これが悪い夢であったらいいのだけれど。喉が痛みだしたから夢ではない。ああ、憂鬱だ。

「名前、泣かないで」

私は嗚咽をもらして泣いていた。

「なっ、泣いてないっ…」
「嘘。オレの目には嫉妬心でいっぱいの可愛い女の子が見える」

くさいセリフも聞き飽きたの。もう構って欲しくないの。フィディオは一人の女の子といるより、百人の女の子に囲まれていた方が絵になるの。だからおしまい。もう終わり。さよなら恋人ごっこ。涙の中で、フィディオの声が聞こえた。

「オレは、名前が大好きだよ」






ぐらち






最後にあんな決めゼリフみたいなことを言って私を引き止めようとしたのか、フィディオはあの言葉以降は何も言ってこなかった。私は涙を拭きながら家に向かう途中で、早速彼らに連絡をした。

「もしもし!」
「えっ、名前?な、何か怒ってるし…」
「どうした?マルコ。名前から?」

マルコに電話をすると、どうやらジャンルカもそこにいるようだ。「私フィディオと別れた!」「ええっ!?」電話の向こうで二人の声が綺麗に重なる。携帯をスピーカー設定にしたようだ。ジャンルカの意味の分からないため息と、マルコの返答に困っている雰囲気が伝わってくる。

「それ、本当なのか?」
「本当だよーさっきさよならって言ってきたんだよー」
「…フィディオ…あいつ何してるんだ」

マルコのセリフが謎だったが、とりあえず彼らは私を咎めることはしないようだ。お前なぁ的なことを言われたら即刻終話しようと思っていた。

「本当に別れたの?」
「うん!きれいさっぱり!」
「フィディオ何か言ってなかった?」

「言ってないよ」嘘をついた。マルコが唸る。私は疑われているみたいだ。そういえば、いつもいつも私の嘘を見抜いたのはフィディオだったな。青い深海の色をたたえたあの瞳で、嘘をついた私をじっと見つめて、嘘、って笑ってくれた。フィディオにだけはどうしても嘘がつけなかった。フィディオ、フィディオ

「……マルコ…」
「ん?」
「私…どうしたらいいか分からないよ…」

さっき全て流したはずの涙が、再び私の頬をなぞって落ちていった。そうだ、フィディオの言う通り、私は嫉妬していたんだ。本当はフィディオに他の女の子を見て欲しくなかったんだ。もっと私を見てほしかったんだ。私は嫉妬深い人間だ、これではフィディオを困らせてしまうけれど、今は今だけは、フィディオのいないこの瞬間だけはどうか嫉妬させてほしい。マルコが携帯越しに私の名前を何度も呼ぶ声を黙ってきいていると、肩を掴まれ視界に青い瞳が入った。珍しく息が上がっていて、肩が上下している。

「フィディオ…」
「泣くくらいならオレと別れるって言うなよ!」

携帯を落としてしまった、女の子に優しいフィディオは果たして携帯を拾ってくれるのか、多分いつもだったら拾ってくれただろう、しかし今は落ちた携帯に目もくれず、力強く唇を押し当ててきた。突然のことで体が硬直する。フィディオは腰に腕を回してぐっと引き寄せ、後頭部に手をやった。あ、まずい。

「ん、っ!…んん、ん!」
「…っう、」

私からすぐさま離れて大きく咳き込む、走ってきたから息が、と笑うフィディオに、つられるようにして息を整えた。フィディオも私も安定した息づかいになりひとまず落ち着くと、少し距離を置いて向き合う。口を噤んで見つめるだけのフィディオに、私から謝ることにした。

「ごめんなさい、フィディオ。嫉妬してたのに嘘ついて」
「名前の嘘なんか簡単に見抜けるさ。オレこそごめん。名前の気持ち全然考えなかった」

少しの静止時間のあと、フィディオが私をゆるしてくれた。私も、これからは私のことをよく見ることを約束させて、フィディオをゆるしてあげた。お互いがお互いをゆるしあって、遂に私たちは再び抱き合った。周りの視線なんか気にしない。仲直りした時くらい、どこででも触れ合っていたいでしょう?私がそう思える相手は、今私を抱きしめている、フィディオ、あなただけなのよ。

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