料理人マルコ






たまにはパスタ以外のものを作ってよ、と言ったのが発端だった。私のその言葉が彼の中の何かに火を点けてしまった、マルコは私を家に呼んでキッチンにこもってしまった。私がいくら呼びかけても返事はなく、聞こえるのはガスを使う音。何かを切っている音も耳に入る。とにかく料理をしていることには間違いない。私は椅子に座らされたまま、私自身も動こうとしない。自分から家に呼んだくせに紅茶の一つ出さない彼に何だか笑ってしまう。

マルコが料理好きなのを知ったのは、告白されて付き合い始めた時からだった。彼は自分から料理好きを告げた。女々しいよな、と笑う彼に首をぶんぶんと振った次の日は筋が痛かったのを記憶している。料理の苦手な私にとって、料理の出来る人は尊敬に値し、しかも彼氏が料理を得意ときては、これはもう私には玉の輿だ。マルコのパスタは、そこら辺のレストラン顔負けの美味しさだ、と心中のろけてみる。将来は二人でレストランなんか開いちゃってもいいかもしれない。もちろん私は接客係だ。客が来ない時には私はマルコに料理を作ってもらうのだ。あ、いいかもしれない。最高じゃないか。

「ちょっと、何にやにやしてるんだよ」

鈍い音がして、木製のテーブルと皿が擦れ合う。私の前に白くてまろやかな色の皿が置かれた。洒落たエプロンをしたマルコが私の視界に映り込む。やっぱりレストランてのは、ありだ。

「パスタ飽きたっていうからマルゲリータにしてみたけど」

マルコは天才なのか。「ちなみに、これはどこから作りました?」「小麦粉を練るところ」天才のようだ。

「じゃあ、食べるね」
「うん、いいよ」

あらかじめ八等分されている一枚を、チーズが落ちないよう気をつけながら口に運ぶ。ゆっくりと喉を滑らせ生地を噛み締めると、ぐずぐずになったトマトの味が口の中で踊った。

「美味しい…!」
「良かった」

彼は私の横でにこりと笑った。こいつ、料理に関してはどこまでも天性の才能を持っているのか。正直なところ、マルコはパスタを作るところしか見たことないから、パスタしか作れないと思っていた。しかしそれはどうやら違うようだ。

「オレも腹いっぱいだよ」
「何で?」
「名前の幸せそうな顔を見られたから」

「…ねえマルコ」「ん?」「将来、二人でレストラン開かない?私がウエイトレスやるから」マルコはいいね、と私の考えに共感してくれた。今から確信する。そのレストランはミシュランの星が付くだろう。マルコのパスタの美味しさを、私のただののろけだと思わないでほしい。彼の料理を食べれば、きっと一度でファンになる。「名前…」「何?」マルコは何故だか頬を人差し指でかいて照れていた。

「それって、オレと結婚したいって言いたいの?」






チャオ、プロポーズ
じゃあ予約ね、君の隣

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