「告白しないの?」
「し、しないよ。私そんな勇気無いし」
「ミーだったら好きって分かった瞬間告白するよ!」

どうしてそんなに積極的にいけるのか。まあ彼だったらそうだろうな、と苦笑いをして家路をのろのろと歩く。マークとは今日一緒に帰らなかった。私の暗い表情を見て、マーク関係と分かったのだ、ディランは「ミー達ちょっと寄って行くとこあるから、今日は一緒に帰れないよ、マーク!」と普段と変わらない調子で言ってマークを先に帰らせたのだ。

「ディランはさ、ふられたあとのこと考えないの?」
「ふられたあと?しばらくショックだよー」

ディランが首を落とし、落ち込んだ素振りを見せる。ディランにとってはそれはただの落ち込んだ「フリ」だけど、私がやると真剣、身長までもが縮んでしまうんじゃないかと錯覚に陥る。「でもね、ミーはそのあとも友達でいてくれるように頼むんだ」






ふられたあとに友達になったとしても、それはぎこちない関係であり虚しい距離を感じるだろう。ディランはその「穴」をどう埋めるつもりなのか。告白したあとの関係を築くのはなかなか難しいものだ。マークにふられて、友達でいて欲しいとお願いして、果たしてマークは以前と同じ笑顔を向けてくれるのか、不安に思うところである。
ディランのおかげで幾分か気持ちは整理出来た。あとはそう、告白。もうマークが好きで好きで仕様がないのだ。マークと会話してると、うっかり好きと言ってしまいそうで怖いのだ。だから告白して、紐が絡まった心を解きほぐしたい。でもふられるのも怖いのだ。だからこの気持ちを心におさえつけていたい。全く正反対の二つの思いが、交錯しながら互いにいがみ合っている。

浅いため息をついて部屋をあとにした。お母さんに断って、明るい道を通ること限定で外出を許される。何も持たずに外へ出た。肌に触れる風が少し暑い。






家にいると頭がぐちゃぐちゃして「分かりづらい」というのが第一の理由だ。目先にある整列した街灯をぼんやりと見つめる。消失点まで伸びるその灯りは、私をどこまでも誘う。

人気の無い道をとぼとぼと歩く。街灯があっても、寂しさは夜に紛れない。やっぱり家にいた方が良かったかな、いやこの気持ちは夜の奥深い星空に散りばめてしまうのが良い。
ふとポケットを触ると、そこには何もなかった。

(財布持ってくれば良かった…)

喉が渇いた。コイン一枚でも持ってくるべきだった。道脇に位置する自販機を見る。金を持ってない奴に売るジュースなどない、と敢然と私を見下しているように見える。ボタンを押すが反応しない。当然だ、私は諦めて歩き出すことにした。と、後ろに気配を感じた。目の前の街灯に、あるチラシが貼ってあるのを目にする。変質者注意。

「――!!」

振り返った。






携帯を握って固まっていた。画面は名前のアドレス帳。電話をかけようと思って三十分が経過している。暗い表情のまま帰った名前が気になって仕方ないのだ。

(…そんなに落ち込むことないのに)

教えてあげれば良かったかな、たちまち彼女の心は晴れるだろう。でもそうすることをしなかったのは、もう少し名前に頑張って欲しかったから。幸せは自分で掴んで欲しい。
携帯を手放し、ベッドに飛び込み天井を仰いだ。幸い、名前は積極的な方なので、こちらが少し機会を作れば(些細なものだが)アピールをしている。マークはそれに気づいているのかいないのか、微妙なところであるが。彼はポーカーフェイスなので推し量れない。
とりあえず二人がくっついてくれれば、もう何も望まない。瞼がずり落ちてきた。






「名前じゃないか。こんなところで何をしてるんだ?」
「……マーク」

半袖のパーカーを着たマークだった。ズボンも膝が隠れる程の丈のを履いていて、涼しそうだ。ひとまず安心し、夜だったことに感謝する。この赤くなった頬を見られるわけにはいかない。しかしマークこそ何故ここにいるのだ。思って、マークの様子がいつもと違うことに気づく。

「マーク、汗かいてない?」
「よく分かったな。今ジョギングしてたんだ」

なるほど。マークは手を上げて、パーカーの袖で額を拭った。その仕草にも、ちらちら目が移ってどきどきしてしまう。彼のことで頭の中が混乱してる時に、何という不運な邂逅を果たしたのか。一人の時の余裕が消える。

「ジュース買っていいか?」

その場に外れた質問に、ふと我に返った。普通を装って、うんと返事をする。マークはズボンのポケットからお金を出した。「名前は喉渇かないか?」「えっ、私は大丈夫だよ」「そうか」ガコン、と音を立ててジュースが取り出し口へと落ちる。マークが買ったのはサイダー、最近よく学校でも飲んでいる。マークはプルタブに手をかけずに、私を見て「この先に公園があるんだ。寄っていかないか?」と公園に誘った。

「そこ、明るい?」
「最近街灯が新しくなったから、今いるこことあまり変わらないかな」
「じゃあ、行く」

それから公園まで無言だった。マークは私の少し前を歩き、スピードはゆっくりで時折振り返る。その優しさが嬉しいのか悲しいのか、今は分かりそうにない。公園に着くと、私は颯爽とベンチに座った。マークが僅かに笑った、感じがする。マークは茂みに何かを見つけたらしく、膝までしかない柵を越えて茂みに屈んだ。手に持っているはボール、毎日見るサッカーボールだった。マークはまた笑う。そして、「持ってて」と、パーカーのポケットに入れていたサイダーを私に手渡して、ボールを蹴り始めた。マークはリフティングがとても上手い。ボールに柔軟な対応が出来るので、滅多なことではボールを落とさない。私は、リフティングをするマークが一番好きだ。

「夜にやるリフティングはなかなか難しいな」

ボールが体から離れていった時、マークはベンチに座る私の横に腰掛けた。自然と私は、マークとは反対側に体をずらす。マークは先程買ったサイダーを飲んだ。「はー上手い」口元を指でこするマークに心臓は張り裂けそうだ。

「毎日走ってるの?」
「毎日じゃないが、週に三日くらいは夜に走っているんだ」
「頑張ってるね」

サイダーを私との間に置いたマークは、ベンチから立ち上がってリフティングを再開するのかと思いきや、私に顔を向けて何やらじっと見つめてきた。何だろう、私の心拍数は上昇する。すごい真剣なのだ。笑うことを許されないような。しかし私も笑える状態じゃない。こんな近くで見つめられてへらへら笑えるほど、私は自分の気持ちを上手く隠せはしない。ああ、喉が渇いた。

「え?」
「…えっ?あ、何?」
「サイダー飲むか?」

マークがサイダーをすすめてきた。どうやら口に出してしまっていたらしい、私の前にサイダーを差し出してマークは未だ真剣だ。これは、どうしたらいいのか。サイダーを取ればいい?でもそれは…。頭の中がぐるぐるする。気持ちを整理するために外に出てきたのに、これでは更に頭が混乱するだけだ。何で会っちゃったかな。

「名前?」

私は足に力を込め、勢いよく立ち上がった。マークは驚いて「どうした?」と声を上擦らせる。

「わっ私、帰る!」

それだけ言うと走り出す。マークが何を言ったかも分からない。ただ、あのサイダーが私の血圧を限界まで上げたことは確かである。

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