※想像故捏造






わたしはよく熱中症になってロココの世話になることが多かった。サッカーを見ている最中にバタン、ロココはキーパーのくせにゴールをがら空きにしてベンチでバタンキューしたわたしの元へ駆け寄ってきたものだった。彼の心配そうにわたしを覗き込む瞳に何度心が痛んだか。わたしに心を痛める権利などないけれど、そうやって小さな頃を彼と生きてきた。

今のわたしはというと、高校一年生、ちょっと厳しいと言われた高校に合格して楽しい日々を過ごしている。近所に住むロココはわたしとは違う学校に進み、サッカーの有名な、ちょっとわたしの高校よりレベルの低いところで元気にやっている。お互い毎日メールして近況(というか最早日記)を報告しあっている。今日の小テストの点数も言える仲なのに付き合っていないのがおかしい、と友人には言われた。

ロココとは恋人を考えたことがない。

それは向こうも同じだ。よく、わたしの下着が自分の家の屋根に乗ってたと言って届けてくれる。両親も至って普通に、わたしが家にいない時はあらありがとうと受け取る。生でだ。紙袋に包むこともせず、ロココはけろりとした顔で下着を素手で家に持ってくる。別にそれでわたしはロココを嫌いになったり変態扱いしたりしない、わたしたちは昔から本当にそういう関係なのだ。小学三年生まで一緒に風呂に入ることもあった。それがわたしたちの普通だった。

「それじゃ、行ってくるわね」
「ガスには気をつけろよ」
「分かってる、いってらっしゃい」

高校一年の夏休み、両親が結婚二十年目の記念として一週間の旅行に出てしまった。兄弟のいないわたしはこれから一週間、家に一人だ。少し寂しいけれど、初めてこんな長い期間疑似一人暮らしが出来る、と内心興奮している。課題を少しずつやりながら、もらったお小遣いの使い道を考える。三割貯金して、あとは洋服とかずっと気になっていたスイーツ屋さんのケーキ、そうそう雑貨屋さんに可愛いペンケースがあったな、あ、それと…。尽きることのない楽しみはわたしの夢を膨らませた。友人とプール行こうかな、新しい水着…はちょっと高いな、でも…。考えすぎて頭が熱くなったその時だ、わたしの家にインターホンが響き渡った。一昨日ぶりに見る彼の顔だった。

「お邪魔します」
「今日から一週間、お父さんたちは旅行に行っちゃったから誰もいないんだよ!」
「え、そうなの?」

部活の帰りなのか、スポーツバッグを肩から提げ汗をかいたロココを家に上げると、「暑い」と一言苦しげに言った。クーラーの効いたリビングに通し麦茶を出してやる、ロココは目の色を変えてコップを掴み、ほぼ真上を向いて一気に飲み干した。よく見ると背中のシャツが汗で張り付いている。もっと、と言うので面倒くさくなって麦茶のボトルを手渡した。半分程あった麦茶がものの数秒で消える。ロココはそこでおっさん臭いセリフを吐いた。

「はぁ〜生き返る」
「おっさんか」
「オレがおっさんだったらお前はババアだからな」
「何でよ」

持っていたテキストで頭を軽く叩く、ロココは真顔でわたしを見ながら叩かれた。ちょっと気持ち悪くて素直にそう言ってあげれば、立ち上がって冷蔵庫に向かう。別段わたしは引き止めはしない。冷蔵庫を開けて、ロココはまずピーナッツを手に取った。こいつは正真正銘のおっさんだ。

「これ、親父さんの?」
「そうだけど、ロココだったら食べていいと思う」

遠慮なくジッパーをスライドさせ、一粒口の中に放り込んだ。笑顔をもらし、うっとりとピーナッツの美味しさに浸っている。後にきけば、ロココは鍵を忘れて家の中に入れないのだと言う。相変わらず馬鹿なのか。成績はわたしより上なのに。こいつのお母さんになったらわたしは絶対ストレスを抱えると思う。

「はー毎日毎日暑くて嫌になる」
「サッカーって屋外スポーツだもんね」
「オレが部長になったあかつきにはクーラー完備の室内サッカーにする」
「へたれ」

ロココと会ったのは、下着を届けに来た日を抜いたら、高校生になって初めてかもしれない。毎日メールするだけで会いはしなかった。久しぶりな感じはしないけどなんだか懐かしい。その懐かしさにも浸れない発言ばかりするロココの背は少し高くなっていた。

「しかしこの家涼しいな。オレの部屋クーラー壊れてて暑くて」
「え、お母さん直してくれないの?」
「お前ほとんど家にいないだろって」

ロココはサッカーがしたくてわたしよりレベルの低い学校に入った。サッカー部に入ってから毎日忙しく、キーパーとして試合に出させてもらえるのもごくまれな話らしい。中学生の時ロココは世界にまで名を轟かせた有名人だ、だけど高校はなかなか上手くはいかない。わたしよりずっと大変だ。

「今日泊まっていい!?」

ロココからの提案を、わたしはすんなり受け入れた。クーラーの効かない部屋で疲れが完全に取れない睡眠をしても、それではいつまでたっても成長しないだろう。ロココは行動するのが速かった。うちに上がった一時間後には、風呂に入った後ストレッチをしながらテレビを見ていた。わたしは夕飯の支度。肉が食べたいと言って冷蔵庫から豚肉を出して来たロココ。昔からだが、何だか抜け目無い。リビングにロココを呼びにいくと、テーブルで課題をやっていた。

「わ、すごい。わたしには分からない」
「え、ここやってないの?」
「うん、まだ」
「おっせ」
「うるさい」

ロココの背中を半分本気で叩くとびくともしなかった。ロココは背中も広くなった。食卓に来るとロココは犬のように鼻を鳴らし、椅子に座るとがっついて食べ出した。お腹すかせ過ぎだろ。ロココはうめえうめえと連呼して、あっという間におかわりを求めてきた。皿を受け取る際、口元に付いた食べ物のくずを取ってやると、ああ悪いと挨拶風にお礼を言われた。フライパンに入っている料理をかき集め皿に盛っていると、食べながらもごもごとするロココの声が聞こえた。

「なあ」
「ん?」
「なんかオレたち夫婦みたいだな」
「ありえないし」

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