ディランはあの一度きりで、私をマネージャーに誘うことはしなかった。マークも、いつもと同じ。ディランだったら今日も言ってくるかな、とふんでいた私の予想は全くあてにならなかった。あれから誰かに声をかけたのだろうか。他の子だったら喜んで引き受けると思う。

今日私は練習を見に行かなかった。






私がユニコーンのマネージャーを断ったという話題は終息を迎え、三日も経つと、何故どうしての質問攻めから他愛のない話に変わった。私も普段通り過ごしている。マネージャーはまだ見つからないようで、放課後に芝生に腰を下ろしてもドリンクやらタオルやらを準備する影は見当たらない。人気があるのに、放課後の練習を私以外の子が見に来ることは無い。何だかとても不思議なことだ。

ディランがまたシュートを決めた。最近好調だな。マークもドリブルに磨きがかかってるし、ユニコーンは少しずつ成長している。私がマネージャーを断った理由はそこにある。

「今日一緒に帰ろうよ!」

練習が終わった午後七時、ディランがそう声をかけた。マークも一緒だと言うことに緊張はしたが、私は「いいよ」と指でオーケーの丸を作った。マークが自転車なので、私はバスでの下校をやめ、ディランと同じ、徒歩で帰ることにした。夜道、といっても街灯の明るい大通りを通って帰るので、そんなに心配はいらない。ディランが「名前はミー達が守るさ!」とやけに自信満々で、マークはただ笑っていた。

「マネージャー、あれから誰も誘ってないんだ」

マークの口から出た言葉にびっくりして、覚えず、ディランを見た。ディランは、アイマスクをしていても私に分かるくらい困り顔でいて笑顔だった。

「なかなかいい子が見つからないんだ。結構みんな忙しいんだって」

「なあ、名前はどうしてマネージャーを断ったんだ?」マークは、至って普通に私に訊いてきた。別に私が断ったことを怒ったり悲しんだりしている素振りはなく、自然に疑問に思ったことを口から発している、そんな感じだった。ディランも首を傾げて私に尋ねる。夕方と夜の境目で彼らの表情が見えてしまう。

「きいても怒らない?」
「怒らないよ!」
「あぁ」
「……」

いつの間にか足は止まっていて、歩道の真ん中で三人、石のように立ちすくんでいた。私たちの周りの空気がシリアス調に変化しているのに気づいているのは私だけじゃないはずだ。

「ユニコーンはどんどん強くなっている。団結力も増して、練習の時の試合の流れもいい。そうやって成長してるディラン達に、私は置いていかれる気がして」
「!」
「そんな…っ」

二人はぐっとこらえた。私の言うことに反論したい気持ちは分かる。

「だから、マネージャーっていうのより、ああやって応援だけしてる方が、気が楽でいいんだ」






彼らはその後何も言わず、私も何も言わず、分かれ道が来るまで誰も一言もしゃべらなかった。家について、私はただいまもそこそこに、自室に入るとベッドに倒れ込んだ。全身を柔らかい布団が包むのでどこか安心する。

(…やっぱりマネージャーやった方が良かったのかなあ)

いや、と自分の考えを否定して枕に顔を埋める。別にマネージャーの仕事が面倒だとか、洗濯が出来ないとかではない。ディラン達に言った理由もあるが、実はもう一つ、誰にも言えない理由があった。

(マネージャーなんてやったら、マークが近すぎてろくに仕事出来ないし…)

だからけして私のせいだけじゃないのだ。でも、マークを好きになった私がやっぱりいけないのかな。階下から、母の呼ぶ声がして私は自分の部屋を出た。ユニコーンのマネージャーが早く見つかるといいな。






ミーは確信したよ、ねえ名前今日の放課後空いてる?ユニコーンは今日お休みなんだ、ちょっと名前に訊きたいことがあるから放課後付き合ってよ。あ、ミーと名前の二人だけだよ。

ディランが一口に言い終わり、私はよく分からないままうん、と答えてしまった。決まり!と歯を見せて笑うのは彼の癖だと思われる。マークがトイレから戻ってきたのでその会話は終わってしまった。今の私達の会話を悟られないようにマークと対話する彼は、隠し事の上手いタイプだと私は頭のメモに忘れずに記録した。そして何だかんだで放課後になったわけだが。ディラン行きつけの店(といってもファーストフード)に寄ってポテトを二、三本まとめて食べるディランが唐突に切り出した。

「マークのこと好きでしょ」

「…!ごほっ、ごほっ!!」「わわっ、ごめん!落ち着いて名前!」気管にジュースが詰まりディランに背中をさすられる。何回か咳き込んでようやく落ち着いた私の顔は赤く染まっていて、手つきも覚束なかった。これでディランにはばれてしまった。ミーは結構前から疑問に思ってたよ!と胸を張って言う。勘のいい男の子だ。

「そ、そうだよ」
「マネージャー断ったのってそれが原因でしょ?」

私はディランとは相反して分かりやすい性格のようで、「何も言わなくても顔に書いてあるよ」とからかわれた。非のうちどころがないのが悔しい。事実は否定出来ない。

「…知ってどうするの?またマネージャーに誘うの?」
「んーちょっと考えたけどね、名前は嫌だろうから、協力しようかなーって思った」
「協力?」

ディランが、ポテトの塩そのままに私の手を握った。口にはケチャップが付いたまま、そこに少しの塩が添っている。

「ミー協力する!名前とマークがラブラブになるように、恋人になれるように!」
「ちょ、ちょっとディラン、声が大きいよ!」
「Oh,sorry!」

恥ずかしい。陽気に笑うディランに、とりあえずハンカチを渡してあげた。

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