甘えるアルデナ






パン屋の主人の息子、カフェのバイトの青年、花屋の娘。今日も街を歩いていたら、たくさんの人に声をかけられた。挨拶から世間話まで、その人その人で話題が違う。散歩をすると、こんな楽しみがあるから私は散歩が好きだ。だけど、私の恋人はそうは思ってない。

「名前!」
「でね、それが……あ、アルデナ!」

右から私を呼ぶ声がして、そちらを見ると、アルデナがすごい速さで走ってきていた。その勢いのまま抱きしめられて、「ぐえ」と女の子らしからぬ声をあげると、花屋の子にくすくすと笑われた。あぁ恥ずかしい。

「また今日も散歩してるの?」
「私散歩好きだもの」
「駄目だよオレも一緒!デートしようっていつも言ってるじゃないか」
「嫌よ。それじゃ散歩にならないもの」

眉を下げて言えば、アルデナは私よりもっと眉を下げてしょんぼりと俯いてしまった。花屋の子が奥に消える。アルデナって、どうしてこう子供に見えるのかしら。私より三センチ背は高いのに。あやすように頭を撫でてあげると、「名前はオレとデートしたくないの?」と細い声が聞こえた。(まったく、どこまでも子供ね)

「そんなこと言ってないじゃない」
「でも、名前は散歩の方が好きなんだろ?デートよりも」
「デートより散歩が好きってだけで、別にデートが嫌いだなんて言ってないわ」

じゃあ何で、とアルデナの目が揺れた。アルデナの後ろに、パン屋の主人の息子が見えた。彼は私に気づいていない、だがいずれ気づくだろう。私に気づいたら手を振ろう。
アルデナの胸をそっと押すと、アルデナが私を離した。だけど腕はしっかり掴まれている。真っ直ぐ私を見るアルデナに、心が見透かされている気がして、それを掻き消すように首を横に振った。

「私がデートしないのはね、デートするとあなたが嫉妬すると思うからよ」

「は?」アルデナの言った後ろでパン屋の息子が私に気がついた。笑顔で手を振る彼に、私も笑顔で手を振り返した。アルデナは素早く私の手を振る方向を見、私を見た。

「名前ちゃん、今日は顔出してくれないのか?」
「今から行こうと思ってたところよ」
「あと三十分でパンが焼きあがるよ。あ、いつもの通り名前ちゃんの分は分けておくよ」
「ありがとう」

「ちょっと名前」そう声を発したのはアルデナだ。パン屋の息子に、恋人なの、と言うと、にかっと笑って、かっこいいね、といい言葉をくれた。アルデナはむすっとして私に問う。

「そういうことかよ」
「だから言ったでしょう?」

アルデナは続けた、「オレもパン屋行く」私の手を強く握って引いた彼に、やれやれと笑うと、パン屋の息子は「大変だな、頑張れよ」と小さく呟いて去っていった。アルデナは手を離す様子はない。今度は花屋の奥にいた子がアルデナに花を差し出して「前途多難ね」とからかった。薔薇の花束。アルデナは目をしぱたかせて私を見るが、私は彼女を見た。お互いにやりと笑みを浮かべる。

「ちょっと、薔薇なんてあげてどういうつもり?」
「薔薇じゃなくて葉に注目して欲しいわね。薔薇の葉にもちゃんと花言葉があるんだから」

私たちの会話にアルデナが入ってきた、どうやら花言葉に反応したみたいだ。教えて、と言う彼に、花屋の子は肩をすくめて「さぁね。彼女にききなさいな」と、笑いながら逃げるように再び奥へと消えていった。お代は結構よ!と言い残して。歩き出した私の後ろをアルデナは追いかけて来て隣に並ぶ。

「薔薇の葉の花言葉って何だよ?」
「自分で調べてよ」

私は走り出した。あと二十分でパンが焼ける。今日は天気がいいから、カフェに寄ってテラスで食べるのもいいかもね。

「……おい、何で笑ってんだよ!」
「パンが楽しみなのよ」






腰巾着になりたい
薔薇の葉?頑張れって意味よ!

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