両親の転勤で私は転校した。転校はこれが初めてだった。親友は涙を流して私を見送り、私も泣きながら手を振り返した。今思えば恥ずかしいことだけど、それでも綺麗な思い出になった。
転校前の学校で、日本とアメリカのハーフ、と言うと大概が首を傾げた。

ニホンってどこ?

ニホンと読むのかニッポンと読むのか私自身曖昧だった。みんな日本を知らなかったのだ。でもそれは当たり前。アメリカから見た日本なんて小さなものなんだから。
父が日本人、母がアメリカ人の比較的裕福な家庭に生まれた。小さい頃から母にピアノを習い、父からは日本語を教わった。おかげで二ヶ国語が話せるようになり、クラスでもちょっとした自慢になった。いじめられたり、仲間外れにされることのなかった学校にいた日々を思い出し、私は新しい学校への足取りを重くした。転校手続きの為に母と新しい学校へ向かっていた。

父の下調べで、転校先の学校も、前とそんなに雰囲気は変わらないところだ、と言われた。本当だぞ、と念を押す辺り本当なのだ。母も私を励ましてくれた。母も父と同じ考えらしい。私は出来るだけ明るく頷いてみせた。父も母も笑っていたが、二人が私の瞳の奥底にある不安に気づいていないかといったら、それは違(たが)っていた。

「お母さん」

私は母を呼び止めた。かんかん照りの太陽が数歩先を歩く母の影を色濃くした。絵になる母。振り返り、私に首を傾げる。

「ハーフだ、っていじめられないかな」

母は声をあげて笑った。最近よく笑う。心配いらないわ、あなたは私たちの自慢の娘だもの。あなたに意地悪するのは、あなたのことが好きな男の子だけよ。そのあとジョークを言って私を安心させてくれた。どこの学校だって変わらない。母の言葉から生まれた一つの確信を胸に、私は熱い日差しの中駆けだした。

明日から、新しい生活が始まる。

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