朝、わたしの下駄箱に大量のゴミが入っていた。プリントをぐしゃぐしゃにした生ぬるいものから、水ですっかり濡れたボロ雑巾のシビアなものまで多種多様だ。今ならミニ美術館を開ける。ゴミの。
案の定上履きは嫌な匂いに包まれていて、元の臭さにそれらの匂いが掛け合わされたことで上履きは歪な臭(シュウ)のハーモニーを奏でている。構わず、その演奏を踏みにじるように中に足を入れた。湿っている。というか濡れている。






時折くすくすと嫌な笑い声が聞こえたが、特に何が起こるわけでもなく帰宅を迎えた。下駄箱に行き靴を履き替えようと自分の下駄箱の中を見て驚いた。臭わない。それどころか、ふわふわいい匂いがしてわたしの鼻孔をくすぐる。くしゃみが出た。しばらくその場で深呼吸をしていたのだが、ずっとそうしているわけにもいかないので、靴と上履きを履き替えた。心なしか、靴も磨かれたかのごとく微かに光っている。誰かがわたしの味方をしてくれたのだ。名前を書いて手紙でも残してくれたらいいのに。そしたらわたしはそのありがたい人の名前をノートの一ページにたくさん書いてプレゼントしたい。
そう考えて思い出した。彼へのプレゼント、あれはどうしよう。机の引き出しに無造作に入れたのできっとぐしゃぐしゃだろう、そんな折れ曲がった紙などあげられない、もしぐしゃぐしゃだったら書き直してちゃんとファイルに入れておこう。そして、はたと気付く。あげる予定は無い。






結局彼の喧嘩の件は表面上落ち着いた(ファンの女子たちの中ではまだ終わっていないと聞いた)。ファンの中で、未だ必死に探している情報。彼が一体誰を貶されて怒ったのか。不思議なことに、ファンの内部で私よいや私のことよの醜い争いは起きなかった。そういうところがファンの結束は固い。つくづく面倒くさいと思う。
彼は、果たして誰の為に怒ったのだろう。何の偶然かは知らないが、前から角を曲がってきた彼が長い髪をなびかせこちらに歩いてきた。わたしは最近声をかけるのも止めてしまった。彼には無視されるし、ファンの子からは集団リンチされる。彼に声をかけたところで、また無視されてファンから痛い目に遭わされるのがオチだ。やはり彼はわたしと目を合わせなかった。

その時だ。

ふわ、と彼からいい匂いがして、それがどこかで嗅いだことのある匂いで、わたしの頭は凍りついた。彼は教室に入ってしまってもう姿は見えないが、わたしの凍った脳内ではぼんやりと彼を映し出していた。すごく最近出会った匂いだ。どこで出会ったかも、よく記憶している。まさか、まさか、でも彼はわたしを拒絶した、でも、いや有り得ない。もう期待するのはやめたのだ、うんざりしているのだ。そう、うんざりだ。彼と関わるのは疲れたのだ。彼とたくさん関わったから、こんなにも涙が出てくるのだ。

 

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