昨日わたしは彼の名前をノートに五十回書いた。残り五十回は今日帰ったら書く。ボールペンで書いたものだから、下敷きを使わなかったそのページはひどく窪んでいる。しかし間違えなかった。書き終わったら彼にプレゼントするつもりだ。

昨日の彼の言葉にいまいち理解が出来なかった。わたしの告白を同情と取ったからあんなこと言ったのだろうか、同情という言葉自体マイナスに扱われるので、彼が“同情”を嫌っているのか。神は全知全能じゃなかったのか。わたしの心も既に分かっていないのか。

「別れよう」

帰りがけ彼にそう言われた。見えざるアンテナで彼を受信しても、何も情報は得られなかった。彼の言ったことがどれだけわたしを傷つけたか、それはフランスにそびえ立つエッフェル塔を、テロによって一瞬で粉々にされるのと同じくらいのものである。ただここで一つ分かったことがあった。神は全知全能なんかじゃないのだ。彼は神なんかじゃないのだ。

「どうして」
「どうしてもだ」

彼はきつく言い放った。今度は自由の女神像が跡形もなく消える。わたしは背を向けられた。そして歩き出すので、わたしも一緒に歩きだしたら、「来るな!」と怒鳴られた。こちらを振り向かずに怒鳴った声が、心なしか震えている気がする。何故震えているのかわたしには分からなかった。辞書などあてにしない。どうせ載っていないのだから。


とりあえず、彼へプレゼントしようとした一枚の紙の行く先がなくなって、わたしは困っている。

 

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