「遅い」

約一ヶ月とちょっとぶりに言われた言葉がそれだった。わたしは謝ることをしないで息を整える。彼は不機嫌そうだった。

「僕を待たせるなんて何様のつもり?」
「この、手紙、書いたのって」
「分からないとでも言うの?」

鋭く磨かれた磨製石器で心臓を突かれた気分になった。気持ちのいいものではない。彼の言動は辛辣だ。普通の子なら泣いてしまうだろう雰囲気も持ち合わせていて大変厄介である。「電波」のわたしには、それが受信出来ないから大丈夫だ。

彼はじっと立ってわたしの頭の中を探っているようだった。わたしは黙ってそれを受ける。だけど、彼は神ではないからわたしの気持ちなど推し量れない。それでも、彼は唇を震わせた。

「泣いただろう」

鳥肌が立った。そして体温が急激に下がった。ついでに喉の奥がつんとした。もう一ついうと、彼がものすごく好きになった。一ヶ月前の想いがどっと胸に押し寄せて、目眩がして、頭が痛くなって、胸が締め付けられて、そして抱きしめたくなった。彼が愛しい。好きで好きで仕方ない。だが彼はわたしを好きでない。「泣いただろう」その一言にここまで辛い思いをさせられるとは、彼はやっぱり神なのかもしれない。

「いきなりふったから泣いたよね。当然だよね」
「でも、別れた日には泣かなかった」
「…何?」
「だってまだわたしは諦めきれなかったから」

笑うかと思った彼は真剣だった。なんだ、空気読めるんだ。わたしと大違いだ。

「…君、一ヶ月前に僕が喧嘩したの知ってるよね。どう思った?何を知ってる?」

なんとなく、だけど、今日の彼はよくしゃべるなと思った。そして今日のわたしは冴えている。受信してしまったのだ、彼が何か隠していることを。

 

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