今時珍しいと思った。げた箱にラブレターじゃなくて画鋲が入っていた。それをじっと見つめていると、上履きに履き替えたアツヤが僕の靴箱を覗き込んだ。

「うわっ、画鋲かよ。今時地味ないじめにあってんだな」
「こんなの初めてだよ。なんとなく目星は付いてるけど」

僕の彼女。素直じゃなくって、俗にいうツンデレの類みたいだけど、こんなことする子だったかなぁ?首を傾げながらも画鋲を下に落っことして履き替えた。






「いくら僕のことが好きでも画鋲を上履きに入れるのは良くないなぁ」
「は?」

彼女の名前ににっこり笑顔で注意を促してみた。ツンデレってよく分からないけど、名前にはいじめっ子の素質があるらしい。

「危ないから今度からやらないでね」

アツヤが僕を呼んだので、僕は短くじゃ、と右手をあげると名前に背を向けた。


その翌日のことである。

「………」

また画鋲が入っていた。アツヤは「お前の彼女ちょっとこえーな」なんて言ってくるし、昨日パソコンでツンデレについて調べたけど、好きな男の子の上履きに画鋲を入れるのはそれと違うらしい。なんなんだろう。一時間目と二時間目は教室移動の授業だから三時間目にききに行こう。アツヤと会話しながらそんなことを考えて教室に入った。






「早退した…?」

名前のクラスの女の子は確かにそう言った。具合悪くなって早退したの。ついさっき。あー惜しかった、朝のうちに行けば良かった。外はしんしんと雪が降っていてとても寒く、雪によって下がった気温は廊下にいる僕の息を白く曇らせた。


そしてその翌日である。今度は画鋲ではなく手紙が入っていた。差出人の書いていない、すっきりした字体で書かれた手紙をアツヤと二人で読む。

「士郎これ…あいつの字じゃねえ?」
「そうだね…放課後に大雪原に来て欲しいだって。何で僕に直接言わないんだろう」
「それが“デレ”ってやつなんじゃねーの」

何もこんなことででれなくたっていいのに。でも彼女からの呼び出しだ、何だか心が躍る。大事にポケットに仕舞うと、アツヤと一緒に教室へ向かった。今日は小雪だった。






先生の手伝いをしていたら遅くなった。持てないくらい荷物あるんだったら二回に分けて運べばいいのに、そういう思考回路は働かないのか。アツヤも逃げちゃったし僕しかいなかった為抱える物が多くて大変だった。アツヤには帰ったら怒らないと。
グランドから抜け出せる大雪原への細い道を通って彼女との待ち合わせ場所に急ぐ。寒い、名前をかなり待たせちゃったな、会ったらまず謝らなきゃ。夢中で歩いていたら目の前に待ち合わせ場所が見えてきた。学校を出た時にふぶき始めた吹雪が視界を遮る。名前の姿は見当たらない。

「名前!」

声を張り上げて大雪原を見渡すが名前らしき人影はいない。待ち合わせに遅れたのは僕なのに、もしかしたらもう帰ったのかもしれない。と、足元がひんやりしたので下を見た。

「…あっ」

僕としたことが、急いで来たせいで上履きのままだった。どうりで…靴下の先が濡れた感触がする。しまった…早く履き替えてこないと、名前はいくら名前を呼んでも姿を現さないし、きっと帰ったんだ。僕はそう考えて学校の方へまた向かいだした。吹雪が激しくなる前にここから離れなきゃ危ない。名前もそれを感知して家路についたに違いない。きっとそうだ。
なんて思っていたら学校について驚いた。名前が教室で友達と談笑しているではないか。

「名前!?」
「ん、あれ士郎?」
「良かった、やっぱり先に帰ってたんだ」
「は?何のこと?」
「え?手紙だよ、大雪原に僕を呼び出したでしょ?」

名前は首を横に振る。えっ?あれは確かに名前の字だったのに。思い違い?そんなはずはない、ポケットに手を突っ込むと手紙が無い。

「しまった落としてきちゃった…」
「おい士郎いるか?」

不意にアツヤが僕の名前を呼び、僕は振り返って、いるよと一言呟いた。

「もう帰ってきたのか?今日サッカー部の練習中止だってよ、吹雪が酷くなってきたから学校が送迎バス出すって」
「あ、うん」
「じゃあね士郎」
「え、名前ちょっと待…」
「士郎早く来いよ!さっさと帰りてーんだよ」
「分かったよアツヤ。じゃまた明日ね、名前」

名前は返事をする変わりにひらひら手を振りカバンを肩から下げて去っていった。僕もアツヤの後を追って教室を飛び出した。






それからまた翌日のことだ。白恋中にある事件が舞い込んだ。先生が朝のホームルームの時間に教室のテレビをつける。それは朝の地域ニュース番組だった。クラスは途端に騒がしくなったが、先生の静かに!という声ですぐに大人しくなる。斜め後ろのアツヤを見ると、アツヤはさあなと言わんばかりに肩を上げた。ニュースキャスターのお姉さんが原稿を見ながらニュースを伝える。

「昨夜六時半頃、白恋中学校裏の大雪原で起きた大規模な雪崩により、今朝四時四十分頃女子中学生の遺体が発見されました。第一発見者は大雪原付近でバードウォッチングをしていた男性で、遺体は白恋中学校に通う十四歳の女子中学生であることが分かりました。死後約十時間が経過していることから、雪崩に巻き込まれたことによる凍死と断定。昨日は吹雪が激しかったにも関わらず、この女子中学生は制服の上に何も着ておらず、手には刃渡り三十センチ程の鉈を握っていたとのことです。警察は、鉈に血痕や髪の毛などが付着していなかったことから、事件の可能性は薄いとみて調査を進めています」

ぞっとした。

 

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